『現代政治学の名著』
『現代政治学の名著』佐々木毅編、中公新書
佐々木毅先生の本を面白いと思ってずっと読んでいるんですが、これをAmazonから買ったら「編」でしたね。
ということですが、あまり集中的に読んだことのない分野ですので、もう「現代政治学」とは言えないかもしれないラインナップですが、楽しんで書評を読ませてもらいました。
『政治学の名著30』も含めてのざっぱくな感想なんですが、政治学というのは、まず基本が、人間をどう捉えるか、という大問題があるから、なかなか体系的な学問としては成立しないのかな、と。あと、ほぼ地球上のほとんどすべての政体が民主主義にはなったものの、大規模な形で民主主義が成立したのはアメリカが初めてであり、そういった意味でもアメリカ研究というのは大きな意味を持つのかな、ということでしょうか。
そういった意味でも興味深かったのは『権力と人間』ラスウェル。ラスウェルによると権力の獲得に専心する政治的人間が存在し、そのパーソナリティの形成過程は「私的動機を、公の目標に転位し、公共の利益の名において合理化する」という公式にまとめられるそうで、その理論はH・S・サリバンを基礎にしているとのこと。
「え、あのハリー・スタック・サリヴァンかよ」というのが第一の驚きでした。尊敬する中井久夫先生が訳しておられる『分裂病は人間的過程である』あたりでも読み直してみようかな、と思ったほど。
とにかくラスウェルによると、権力志向の人間のパーソナリティは、価値剥奪に対する「補完(compensation)」として権力を用いて大きな価値を得られた場合に形成されやすいそうで、それが急迫的性格となった場合には責任を他者に転嫁しつつ、細部まで計算して人間関係を処理するタイプになる、と。また、激化型の性格は、ヒトラーのように他人の情動の動きを察知するのが巧みな扇動家になる、と。なんか、最近の日本の地方ポピュリストにそっくりなようで怖いんですが、まあ、面白かった。
『国際政治 権力と平和』モーゲンソーで指摘されている、近代ナショナリズムは、道徳的正当性をまとうことで、国際政治にやいて暴力性と破壊性を高める要因になっているなんていう言い方も、なるほどな、と。
サンデルさんのネタ本であるロールズ『正義論』もずいぶん危ういなとか、とにかく、政治学というのは多様性のことなのかな、と感じました。
ウォーラス『政治における人間性』
ウェーバー『職業としての政治』
ミヘルス『政党の社会学』
リップマン『世論』
メリアム『政治権力―その構造と技術』
ラスウェル『権力と人間』
ハイエク『隷従への道』
アーレント『人間の条件』
モーゲンソー『国際政治―権力と平和』
ダール『ポリアーキー』
ローウィ『自由主義の終焉』
ロールズ『正義論』
ハーバーマス『後期資本主義における正統化の諸問題』
丸山真男『現代政治の思想と行動』
辻清明『日本官僚制の研究』
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