絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)
久々に歌舞伎を見物に行きました。
正直、歌舞伎は歌舞伎座で見ないと気分が出ないというか、始まる前のわくわく感がない感じがして、演舞場や国立劇場には、あまりオジャマしなかったんですが、まだ来年のコケラ落としまで時間はあるし、絵本合法衢を通し狂言で仁左衛門さんがアンコール上映みたいな形でやってくださるというので隼町まで行ってきました。開場45周年記念の「歌舞伎を彩る作者たち」シリーズの最後を飾る鶴屋南北の怪作です。
とにかく、この作品、粗筋を読んでいても、複雑すぎてまったくアタマに入ってきません。
登場人物が多すぎて、しかも捨てキャラのように次々と殺されていってしまう。また、お家騒動モノ特有の縁故関係の複雑さもあって、文字だけ追っていては草臥れてしまうほど。
この作品は初見なので、スジぐらいあらかじめ確かめておこうと思ったのですが、途中であきらめるほどでした。
ところが、いざ芝居が始まると、スッと入ってくる。
左枝大学之助は悪役そのものの出で立ちですし、仁左衛門さんが二役で演じる弟の太平次は愛嬌ある悪、その愛人になりたいうんざりお松はなんともいえない妖艶な悪を感じます。そして、それぞれのキャラが舞台に立つと、それぞれが導音となって必然の物語が紡ぎ出される、みたいな。
昔、マルクスブラザースの脚本を読んでいて、まったく意味は分からないんだけど、実際にグルーチョ、ハーポが出て動くと意味が生じるみたいなのを思いだしました。
こういったのは、やはり生身の人間が演じるキャラだからな、と改めてキャラクターの大切さを感じました。しかし、全ての幕で人殺しがあるなんていう脚本を、よくあんな昔に書いていたもんだと感心します。南北は凄い。
昨年3月、大震災のために公演が中途で打ち切りとなった舞台ですが、こうして、見逃していたのを見物できて、本当にありがたかったです。
松嶋屋さんばかりなので、大向の会の人たちも、「十五代目!」とか工夫してたけど、孝太郎さんへの「若松嶋!」は自信なさげで、ちと外したかもw
とにかく、大満足の舞台でした。歌舞伎って素晴らしい!
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