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March 23, 2012

『政治学の名著30』

Politics_30

『政治学の名著30』佐々木毅、ちくま新書

 ここ数年のうちに出された新書の中で文系の大学院生に勧める一冊、なんていうアンケートに答えなければならなくなったら、これを選びますかね。

 自分が不勉強なのにはまったく驚かなくなっているのですが、佐々木毅さんというお名前で薄く記憶にあったのは「東大の総長さん」ぐらいのもんでした。専攻が政治学、西洋政治思想史なんていうのも存じ上げませんでした。

 でも、原発事故以降、よく電気新聞を読んでいまして、その最終面にあるコラムも「カネかかっているな=高い稿料払ってるだろうな」と思わせる素晴らしい方たちが書いているんですが、常連の中でも素晴らしい内容でいつも唸らされていたのが佐々木先生だったんです。

 で、最近ハタと気づいて、ご著書を読んでみようと最初に手にとってみたのが『政治学の名著30』。いやー、唸りました。幅広い教養というのは、これぐらいのことをいうんだろうな、と。

 文章もいいんですよね。

 つまり、人間は生まれながらにしてポリスを構成生するように定められており、互いに協力しながら生きていく存在である。逆に言えば、言葉と善悪の感覚を持たない野獣はポリスをつくることができず、完全に自足した神はポリスを必要としない。孤立して生きられない人間にとってポリスは最高の共同体であり、人間としての可能性はそこで初めて十全に開花することになる、という。ポリスを離れては人間は人間であり得ないというこの発想はきわめてギリシア的であり、ポリスとそこでの政治活動がいかに重大な意味を持っていたかがうかがわれる。それは究極的には善き市民と善き人間との一致という議論に道を開くことになる。ギリシア人にとってポリスの喪失は単に政治的自由の喪失であるに止まらず、人間としての目的の喪失を意味したことがここに示唆されている。

 とアリストテレスの『政治学』の前提となる考え方をまとめたあたりの悠揚迫らぬ書きっぷり。「こういう文章が書けたらな」と思わせます。

 全30冊はとても紹介しきれませんが、スミス『国富論』、ヘーゲル『法の哲学』、マルクス・エンゲルス『共産党宣言』の流れだけ、個人的にも興味があるところですので整理したいと思います。

 ヘーゲルによれば人倫の段階に至って初めて真の自由が実現しますが、人倫は家族、市民社会、国家の三段階に分けられ、国家によって個人の自立性と普遍性との合一が実現します。ヘーゲルのお得意は国家なんですが、その前の市民社会はスミス以来の経済社会像に由来する「欲望の体系」、司法、行政及び職業団体の三段階に分けて考察されています。そしてヘーゲルよれば、こうした市民社会の個別性、特殊性に対して普遍性、一般性を体現すべきものとして国家が立ち上がってくる、と。例えば《市民社会の第三段階である行政と職業団体の項は市民社会から国家への移行、国家による市民社会の包摂の役割を担当している》というような議論なんです。

 ところがマルクスは、市民社会を国家に従属させるような考えはとらず、政治的解放の矛盾と限界を突破し、人間的解放を実現することを目指します。

 吉本さんところでも書きましたが、どうも、日本の左翼の人たちは、マルクスの「国家<市民社会」という前提がよくわかっていないんじゃないかというか、肌感覚として理解できていなかったんじゃないかと思うんですよね。福沢諭吉の『文明論之概略』のところで佐々木先生も書いておられるんですが、アジア的伝統の中で、学問も宗教も商売も興業も全て政府の中に「籠絡」され、独立市民などは妄想でしかなかった時代が長く続いた上に、明治政府の国のつくり方がうまかったということも手伝ったんだと思いますが、どうしても、日本人の近代は国を重く考えがちだったんじゃないかな、と。

 また、マルクスの階級支配の終焉とともに政治が終焉するという議論は、政治についての議論そのものを封印し、その結果として弟子たちには政治思考がなくなり《マルクス主義が共産党支配として現実化した時、政治的思惟の深刻な無力化に見舞われた》というのは、素晴らしい批判だな、と思いました。

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