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February 07, 2012

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』

Human

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班、角川書店

 1月30日に第1回、2月5日に放送された『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』は衝撃的な内容でした。

 「第一章 協力する人・アフリカからの旅立ち 分かち合う心の進化」では、自主的に仲間と協力し分かち合うということが人間の本質であり、「第二章 投げる人・グレートジャーニーの果てに 飛び道具というパンドラの箱」では、投擲具の発明が人間の狩猟領域を一気に拡大するとともに、「力」を抽象概念として人間に認識させ、協力を拒む人間に対しては制裁する道具にもなり、それがやがては集団間の闘争に発展するというような内容でした。「第三章 耕す人・農耕革命 未来を願う心」は2月19日、「第四章 交換する人・そしてお金が生まれた 都市が生んだ欲望のゆくえ」は2月26日に放送されますが、今から楽しみでしかたありません。

 その放送内容がプロデューサーたちによってまとめられたのが、この本。とりあえず、ネタバレにならないように、1回目と2回目について、放送されなかった部分を中心に書いてみます。

 このNHKスペシャルは、なんで人間は協力するような心を発達させてきたのかという問題を真正面から扱っているんですが、研究者は「心」というような曖昧な言い方せず「現代人的行動の起源」と呼ぶんだそうです。心は遺跡などには残らないけど、行動の結果が証拠として残るから(p.20)。

 映像でもサン(日本人に馴染み深い言い方をすればブッシュマン)の女性たちが、掘った芋をすぐにみんなで分けて食べ始めるシーンが印象に残っていたのですが、案内してもらっていたリー博士によると「かれらの社会でもっとも嫌われるのは、ケチと自慢です。生き残るためには分かち合うことがとても重要だったのだと思います。最悪なのは身勝手に村の正確の歩調を乱す人です」というのにはうなりました(p.34)。

 リー博士の言葉として「人間の乳児の最初の行動のひとつはモノを拾って口の中に入れることです。次の行動は拾ったものをほかの人にあげることです」というのもハッとさせられました(p.42)。乳幼児をお母さんやおばあちゃんがあやしていて、何かをあげると、それを赤ん坊がかえすみたいなことを延々とやっているを見たことがあると思うんですが、あれって、人間にとって本質的な行動だったのか…みたいな。

 チンパンジーの実験は相当興味深いものでしたが(ネタバレするので書きません、オンデマンドでどうぞ)、京大霊長類研究所の山本真也教授の「もし、お皿に苺が山盛りになっていたとしましょう。2歳の子どもの口にお母さんが苺を入れる。喜んで子どもは食べます。すると、必ず子どもは苺を持って『お母さんにもあげる』ってやりますよ。これは人間の本質です」という言葉も深い。チンパンジーが積極的に協力しあわない理由が「いま目の前にある、この世界に生きているという制約が強いのです。瞬間記憶もその生き方のために必要な能力です」というのもなるほどな、と。「志を持って他者に手を差し伸べ、その人を幸せに導く。すごい強い動機付けを人間は持っていて、それが人間の人間らしいところだと思います」というのが山本博士のキメの言葉。

 そしてこうした協力関係が生まれたのは、人間が脳を大きくしたため難産になったたからだと説明されていましたが、さらにこの本では詳しく説明されています(p.62)。

 通常、胎児は頭を下にして、産道に突入する。そのあとを、箇条書きの注意書き風にするとこうだ。
1.突入時、胎児は母親の横側を向かなければならない。
2.産道の途中までくると、頭を回転さらて、母親の背中側を向かなければならない。
3.出口付近では、胎児はさらに頭を少し横に回旋させなくてはならない。
4.最後は、母親の恥骨と尾骨のあいだに肩がはいるようにしなければならない。

 人間は自分で産道から出てくる子どもを引っ張り出すことは難しく、介助する人が必要になり、この習慣は世界共通だそうです。「ヒトは長いあいだ出産時に、自分の母親、姉妹、友人たちから離れるなんてことはありませんでした」というカレン・ローゼンバーグ博士の言葉も印象的です。

 それと、これは放送されたかどうか記憶になく、もしかしたら「第四章」につながる話しになるのかもしれませんが、ハーバード大学のマーティン・ノワク博士の「協力は突然変異や自然淘汰と並ぶ、第三の進化の柱」「人間は協力のチャンピオン」という言葉もよかったな。ノワク博士によると協力には、直接的に人を助ける直接互恵のほかに間接互恵も重要だそうです。直接人を助けると「あの人は頼もしい人間だ」という評判が間接的に広がり、さらに協力してもらえるようになるというんですね。「直接互恵性には顔が必要であり、間接互恵性には名前が必要」という言葉は鋭すぎ(p.92-)。

 博士は金融市場も研究対象にしているそうです。金融市場は規制があって、人はその制度内で協力して働いているけど、誰かが抜け穴に気づき不当に儲ける者が現れ、それが全体の危機を招くということはを繰り返ししているのは、スゴイ指摘だな、と。バブルが必ず弾けるのは、そのためなんですね。「気前がいいこと、希望を持つこと、寛容であること。この戦略が協力を生み出すのです」という言葉は、どっかに貼り付けておこうかな、と思うぐらい。

 第2集は、また後日。

 チンパンジーの攻撃性については映像ではサラッと触れられていた程度でしたが、それもそのはず、チンパンジーは8頭程度で縄張り周辺を動き回り、隣接集団からはぐれた単独チンパンジーを激しく襲うそうです。その襲い方というのが凄い(p.110)。

 単独でいる不利な立場のチンパンジーは、先ず手首を掴まれる。足首も掴まれる。攻撃側が5頭とすれば、1頭が足首、1頭が手首、別のがもう一方の手首、そしてまた別のがもう一方の足首、そして掴まれたチンパンジーは身動きができず、完全に押さえつけられるので、最後の1頭は何でもできる。ときには、胸を切り裂き、睾丸を取り除き、噛み付いて顔を急激に引っ張って皮膚を切り裂く。そんな恐ろしい様子をランガム博士はフィールドで観察した。
 それは、メスをめぐる争いでも食べものをめぐる争いでもない。まるで、そうするほかないと駆り立てられて、殺しているとしか思えない。いったいなぜなのか。ランガム博士はこれを解明したいと考えているという。
 「私たちホモ・サピエンスは攻撃性を文化的に作り出したのではなく、むしろねそれは私たちの生態の一部であると思っています。興味深いことは、オスが血縁者や親類やほかのオスと一緒に集団生活をして、時折襲撃したり、殺すために隣接集団の領土を侵略したりすることです。それをする生き物は、私たちの分かっている範囲ではチンパンジーとヒトの2種類だけです」中略。「集団対集団の関係では平和は見られません」

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