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December 03, 2011

『小沢征爾さんと、音楽について話をする』

Ozawa_murakami

『小沢征爾さんと、音楽について話をする』小澤征爾、村上春樹、新潮社

"When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again."

とエリック・ドルフィーも語っているぐらだから、感動は、なるべく醒めないうちに書いておこうと思います。何を感動しているのかといいますと、村上春樹さんの『小沢征爾さんと、音楽について話をする』。

 ぼくもヘタの横好きのクラシックファンなんで、村上さんがキーワードとしている「共感」できる部分が多かった。

 一番、それを感じたのがスコアを読むこと。中学生の時に、ぼくには同級生のクラシックの師匠がいまして、T君というのですが、2年生ぐらいの時、NHK FMの「バロック音楽のたのしみ」で聴いたラモーとかクープランなど、(当時は)あまり馴染みのない作曲家について話していたら「一度、お前もスコアを読みながら聴いてみるといいよ。全然、理解度が違ってくるから」と言ってくれたんです。でも、まあ、ピアノは小学生5年の時にこらえ性がなくて辞めているし、文化度はそんなに高い家ではなかったので、そんな高度な楽しみを味わうのはムリだろうな、と思って「いつかね」なんて感じでお茶を濁していたんだと思います。

 でも、あのとき、T君の家に遊びに行って、スコアを読むことを教わりながら、音楽を楽しめるようになったら、どれだけ豊かな音楽体験をできただろう、ともずっと思っていたんです。

 で、村上さんも、かなりのクラシック音楽のファンだということが今回わかりまして(正直、ここまで聴いているとは思わなかったんですが、家にいてずっと聴けるかから、ということで、聴いている量が違うと思いました)、その村上さんですら、スコアを読みながらということに憧れつつ、果たせないでいるというのを知って、「共感」してしまったわけです。

 スコアを読みながら聴く、あるいは演奏するというのを村上さんは《翻訳でなく原書で文学を読むことのできる楽しさ、自由さと、少しは似ているかもしれない》と書いているんですが、なるほどな、と思う表現でした(p.96-)。

 そして、ぼくはずっとT君ところに何回か通って教われば、バロックの室内楽ぐらいのスコアならすぐ自由に読みこなせるようになって、やがては古典派以降の交響曲のスコアなんかもスラスラと読めるんじゃないかなんて勝手に思っていたんですが、どうもそうではない、ということもわかりました。

 村上さんもピアノを習っていた関係で、簡単な楽譜ぐらいは読めるそうですが、ブラームスあたりのを読もうとなると、小沢征爾さんの答えは「良いコンストラクターについて何ヶ月か習えば、春樹さんならすぐに読めるようになるよ」という、まあ、職業を持っている、比較的こらえ性のない多趣味なニンゲンにとっては絶望的なものになります。

 でも、いつか、やってみたいとは思うんですが、それは《創り手と受け手を隔てる壁》なんだと思います。そして、音楽というのは、そうした壁は高いにせよ、小沢征爾さん相手に、音楽について率直に話すことを妨げない素晴らしさを持っているのかな、と。

 でも、この本、本当に素晴らしい。

 ブラームスの1番四楽章で、ホルンやフルートのソロについて息継ぎの音を聴かせないために、ブラームスは第一奏者と第二奏者が変わるところまで指定しているそうで、恥ずかしながら、こんなことを知ったのは、初めてでした。

 T君はA高校からT大文IIIに入ったということは聞いているんですが、その後は会っていません。今でも、きっと、時々はピアノを弾いたりするクラシックの好きな、ぼくとは違って趣味の良い人生を送っているんじゃないかと思っています。

【追記】

 さっそく、ある親切な方から、いまなら、版権の切れたスコアなら、わざわざ買わなくても簡単に楽しめて、iPad片手に音楽を楽しむことができる、と教えていただきました。

 ブラ1ぐらいには敬意を表して、この週末ぐらい眺めながら聴いてみたいと思います

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