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December 02, 2011

『酒呑まれ』

Sakenomare

『酒呑まれ』大竹聡、ちくま文庫

 こんな面白い本なのに、なんで単行本として出ないのか…それが出版界の現状の厳しさなのかもしれないけど、まず最初に思ったことは「文庫本なんかで出さなきゃいいのに」ということでした。最後の頁に「本書は、書き下ろしです」と書いてあるのが、少し寂しい。

 というのも、大竹さんは、山口瞳さんの後継者なんじゃないかと思うほどの書き手だから。でも、小説書かないと、この世界では高く評価されないんですかねぇ。

 ま、それはおいとして、高度成長期に東京に生まれ育ち、バブル崩壊も経験したひとりの人生が、酒を通して浮かび上がってきます。

 大竹さんのお父さんは出奔なされたようですが、家では角瓶のボトルにレッドの大瓶からつぎ足しで飲んでいたなんていうあたりは、いいなぁ。今は忘れられているかもしれないけれど、そう遠くない昔には確実にあったそうした風景が浮かび上がってくるようです。タケホープがハイセイコーを下した菊花賞を3-6と予想して当てた思い出を書きながら《父の酒はレッドであり、オールドである。私はいつか、できるなら京都競馬場まで足をのばして、サントリーレッドとサンリーオールドのポケット瓶を鞄にしのばせ、菊花賞を観戦したいと考えている。馬券はもちろん3-6を買うつもりだ》なんてあたりは泣かせます(p.26)。

 山口瞳さんも『酒呑みの自己弁護』という酒にまつわるエッセイを書かれています。で、よく自分の書いたものはセンチメンタリズムをベースにしているとも言っていました。まあ、嫌いな方も多いかもしれませんが、ぼくは拒絶反応は出ないですね。だって、角瓶にレッドの大瓶から注ぎ足すなんていうのは、情けないけど、廻りでけっこうやっていたのを見ているから。そうしたものは肯定しないとね、といいますか、大切にしないとね、みたいなとこがあります。

 ただお二人が違うのは、山の手と多摩という生まれ育った環境と、高度成長期にサントリーという大企業に入ることのできた幸運と、マスコミの周辺でなんとか頑張らざるを得なかったという社会人体験ですかね。

 でも、不思議と似ているという印象があるのは、お二人とも中央線沿線に住んでいるからでしょうか。

 個人的なイメージですが、中央線というの寂しい線だと思うんですよ。

 何十年か前、高円寺あたりのホームで、日野あたりまでズッーと広がっている木造モルタル二階建ての家々のシルエットを夕方あたりに見た時は、本当にうら寂しいという言葉が頭をよぎりました。なんつうか「みんな同じような家に住んで、家族を持って頑張っているんだろうけど、この風景はちょっと凄すぎるよ」みたいな。

 山口さんと大竹さんは、「酒を飲んだ後の帰り」というテーマで書くんですが、酔って少しボーッとしながら窓の外の暗闇にいろんなものを見ていたんじゃないですね。

 最後に題名について。なぎら健壱さんが書いてくれた解説から取ったと書いていますが、ぼくは吉田健一さんの『酒に呑まれた頭』を思いだしていました。

 まあ、とにかくいい本です。

第1章 父のレッド
第2章 給料日にはウイスキー
第3章 一人酒・取材酒
第4章 バーで飲む
第5章 あの人の酒
第6章 ホッピーの頃
第7章 競馬と酒
第8章 どこまでも

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