『漢詩を読む 2 謝霊運から李白、杜甫へ』
『漢詩を読む 2 謝霊運から李白、杜甫へ』宇野直人、江原正士、平凡社
平凡社の一連の漢詩シリーズもこれで4冊目。『李白 巨大なる野放図』『杜甫 偉大なる憂鬱 』『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』はいずれも名著。
今回は貴族たちが軍閥の力に負け始めた南北朝から、随による統一、初唐から盛唐の時代に活躍した詩人たちが取り上げられています。
南北朝の詩人(中国の場合は有力官僚、政治家)は権力構造の変化にとまどい鬱屈しています。
顔延之の「炎天方に埃鬱 暑晏るれば塵やむ 独り静かにして隅座を闕き 堂に臨んで星分に対す」から始まる詩なんかはそんな気分が横溢しています。
そんな中で玉階怨の玉階怨は美しい…「夕殿珠簾を下し、流螢飛びて復た息ふ 長夜羅衣を縫ひ 君を思ふこと此こに何ぞ極まらん」。
そして陳が滅びて随が中国を統一し、科挙の制度が始まり、いよいよ官僚たちの世になっていき、唐の太宗である李世民が貞観の治と呼ばれる統治で国力を伸ばしますが、その時代の最初のスター詩人である魏徴は、なんと李世民の兄に仕えて弟を殺せと進言した人物。もちろん暗殺計画は発覚して魏徴も捕らえられるのですが、太宗はその人物を見抜いて側近中の側近として遇し、魏徴もそれに応えて恐れず直諫するという関係をつくります(両者のやりとりは『貞観政要』にまとめられ日本にも大きな影響を与えました。ちなみに西郷隆盛は3回読んだそうです)。「人生意気にに感ず 功名誰か復た論ぜん」という有名すぎる言葉で締められる述懐は、魏徴の心意気を感じさせる詩です。
酒や酒場をテーマとした最初の詩人、王績なども詩も忘れられません。
則天武后が権勢を示すためにつくった則天文字のうち、今、目にすることができるのは水戸光圀の「圀」だけというのも知らなかったなぁ(p.162)。
貧しい家に生まれながらも二十歳で科挙に合格して政治家としても大成功した張説の詩も初めて読みましたが、立派なもんです。「酔後方さに楽しみを知り 弥いよ未だ酔わざる時に勝る 容を動かせば皆な是れ舞ひ 語を出せば総て詩と成る」という「酔中作」なんかは、今と同じ感覚です。
改めて読んで好きかもしれないと思ったのは賢相として名高い張九齢。
「照鏡見白髪」
宿昔青雲志 宿昔 青雲の志
蹉跎白髪年 蹉跎たり 白髪の年
誰知明鏡裏 誰か知らん 明鏡の裏
形影自相憐 形影 自ら相憐まんとは
謝霊運、王維、李白、杜甫などビッグネームについてはお読みください。
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