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September 15, 2011

『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』

Daihonei_sanbou

『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』堀栄三、文春文庫

 前から読もうと思っていた本ですが、加藤陽子さんの昭和史つながりで読んでみました。

 大本営参謀だった人々は戦後も様々な手記を残しており、著者も敗戦直後に『悲劇の山下兵団』と題する原稿を書き上げたそうですが、元第一師団長だった父から「負け戦を得意になって書いて銭を貰うな!」と叱責されたそうです。それ以降は沈黙を守っていましたが、保坂正康さんが昭和59年から1年かけて説得。ようやく書いてもらった「最後の大本営参謀モノ」の名著だと思います。

 一読、大本営参謀といっても、その中には階級があって、最もヒエラルヒーの高かった作戦部の奥の院には、情報部などまったく入れなかったというあたりが赤裸々に描かれていているのが印象的です。だから服部卓四郎、辻政信、瀬島龍三などの作戦参謀たちに対しては「ノモンハンで失敗した男」(服部、p.286)、「フィリピンが反日的になったのはネグロス島出身の法務大臣を独断指令で抹殺したから」(辻、p.178)、「台湾沖航空戦を大勝利と見誤り、捷一号作戦を大慌てで指令して失敗した」(瀬島、p.195)と手厳しい評価を下しています。しかも、こうした作戦参謀たちは、おめおめと戦後も生き抜いているんですから、たまったものではありません。

 著者は父の言葉を借りて、《天皇の命令である大命を起案して允裁(いんさい)を受ける作業に関係した》のは《大本営の中の中枢的なごく一握りの奥の院の参謀たちであり、宸襟(しんきん)を悩まし亡国の責任者》とまで批判しています(p.286)。それと対照的なのが命令のままに命を捨てて戦闘に従事した軍人たちであり、こうした軍人たちを、作戦参謀などからは峻別してほしい、というのが本書を書いたひとつの理由でもあるのでしょう。

 後者の例として、堀氏が何回もとりあげているのがペリリュー島の守備隊長中川州男大佐(玉砕後二階級特進、中将)。1個連隊で米軍2個師団と押しつ押されつの戦闘を繰り返し、中には昭和22年4月21日まで戦闘を続けていた部隊もあったそうです(p.144)。

 米軍は日本が守備隊を配置した太平洋の25島のうち、8島に上陸・占領しましたが、そのほとんどが、徹底的な空爆と、島を取り囲むようにしての艦砲射撃で徹底的に守備隊を粉砕してから上陸する、というものでした。

 堀氏は情報参謀として、こうした作戦を『敵軍戦法早わかり』としてまとめたのですが、その内容を伝えにフィリピンに赴き、山下将軍と面談。確かに米軍の「鉄量」は圧倒的だが、弱点は山岳戦にある、と伝えます。堀氏が何回も書いているのが、鉄量には鉄量でしか対抗できないこと、そして戦争は高い高度を取った方が勝つ、ということ。日本軍は開戦当初、インドネアの島々に無血入城して大勝利を宣伝しますが、制空権を失えば、ほとんど点を押えているにすぎなくなる一方、米軍は滑走路を確保して制空権を奪い、その得た高度をどんどんフィリピン、沖縄、硫黄島に移動させ、最後は日本の陸海軍を丸裸にしてしまったわけです。

 後藤田正晴さんは、日本軍など組織の体をなしておらず、よく戦争なんぞを始めたものだと『情と知』で書いていましたが、なんとフィリピン方面軍ではハワイの日系二世の米国スパイを雇っていたというんですから《われわれ情報関係社も実に迂闊千万なツワモノだったというほかない》と嘆息する気持ちも分かります(p.241)。

 本書には自身の参謀としての活躍も書いているのですが、最後には《「こんな態勢で、よくも米国と戦争をしたものだ。情報なき国家の悲劇だ」と、米軍から嘲笑われているように思えてならない》とサブタイトルにしているセリフを吐いて終ります(p.335)。

 米国が第二次大戦開戦直後に日系人を強制収容したのは間諜組織を一網打尽にするためだったとかいう話しは「本当かな…」と思いますし、キューバ危機の際にミサイル基地の写真をU2偵察機から撮ったのはニコンのFM2だと書いてあるのは明らかに機種名が違ったりするのですが、とにかく面白い一冊でした。

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