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August 04, 2011

『コルトレーン ジャズの殉教者』

Coltrane

『コルトレーン ジャズの殉教者』藤岡靖洋、岩波新書

 沢田研二を擁したファニーズがタイガースにバンド名を改めて飛躍する直前の大阪。そのファニーズが出演していたライブハウス「ナンバ一番」の隣の松竹座にコルトレーン・クィンテットがやってきたのは1966年7月だそうで、グループサウンズに夢中だった中一の筆者は、タイガースのことは覚えているけど、コルトレーン来日は知らなかったそうです。

 コルトレーン・クィンテットが来日する1週間前にはビートルズも来日していて、66年という年は凄い年だったんだな、と改めて思います。

 当時は小学生低学年だったぼくもコルトレーンのことはライブでは知らず、中高生になって初めて打ちのめされることになります。そして、打ちのめされたのは、この来日ライブ盤の「アフロブルー」でした。これがフリージャズだとも知らずに、その生命力のほとばしりともいうべき演奏に圧倒されました。由井正一さんの「生きていて良かった」という言葉は有名ですが、そうしたライブを聴けなかったけども、やがてコルトレーンに惹かれて研究書まで書いてしまうという筆者には共感を覚えます。

 今夏、コルトレーンの『ライヴ・イン・ジャパン(完全版)』が出るのも楽しみですが、筆者は、コルトレーン末期の日本公演の記録を克明に追います。コレトレーンはこの来日公演の翌年に肝臓癌で亡くなります。すでに体調が悪く、野菜や果物ぐらいしか口にできなかったようですが、日本中を駆け回った公演の途中で、大阪公演をたった1回に抑えて広島、長崎の地を入れるなど、新幹線がまだ東京~大阪しか走っていないような状況の中で、ハードすぎる日程をこなします。

 来日時のインタビューで「私は聖者になりたい(I would like to be a saint)」と語ったのも有名ですが、来日公演の際には、もう半分そういう気分になっていたのかもしれません。

 コルトレーンの評伝を読んだのは初めてですが、生まれが、当時の黒人家庭にしては比較的恵まれていたというのは初めて知りましたし、後年の彼の敬虔さを生んだのは、有名な黒人牧師であった祖父ブレアの影響もありそうだ、というのも初めて知りました(p.33)。

 コルトレーンは高校を卒業してフィラデルフィアに行き、太平洋戦争がまだ続く1945年8月6日に海軍へ入隊します。そしてオアフ島の真珠湾で任務についた11月28日には、もう戦争は終っており、9ヵ月間の海軍生活は比較的ゆったりしたものだったようで、除隊記念にレコードも録音してもらっています(コルトレーンが最初に録音したレコード!)。

 これがやがてマイルズ・ディヴィスの耳にも届くというのは驚きですが(p.50-)、それよりGIビル(復員兵援護法による退役軍人基金)によってグラノフ音楽院に入学できたのがコルトレーンの人生にとっては大きかったようです。軍隊経験のないソニー・ロリンズが生活に困って隠居したりするのとは対照的に、コルトレーンの人生は、しっかりと地に足がついているように感じますね。

 筆者は、コルトレーンの死後に発表された曲から、公民権運動などに寄せるコルトレーンの熱い気持ちを解き明かしてくれます。

 DAKAR(DAKAR収録)、BAKAI(COLTRANE収録)、Song of the Underground RailroadとThe Damned Don't Cry(Complete Africa / Brass Sessions収録))、Alabama (Live at the BirdLand収録)などの曲は、正直、まともに聴いたことはなかったのですが、これからはマジメに聞こうと思いました。

 それぞれ、なんていうことのタイトルですが、例えば『バカイ』はアラビア語で「叫び」という意味で、夏休みに南部に遊びに来ていたときに白人女性に声をかけたただけでリンチを受けて殺された北部生まれの黒人少年エメット・ティメルを弔った曲だそうです。

 また、アンダグラウンド・レイルルロードは南部の黒人が北部に逃げる時の秘密のルートのことですし、アラバマはKKKに爆破された教会で4人が亡くなった事件に基づいています。

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