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August 16, 2011

『二十世紀の10大ピアニスト』

10pianist

『二十世紀の10大ピアニスト』中川右介、幻冬舎

 長い副題がついていて、正式には『二十世紀の10大ピアニスト~ラフマニノフ/コルトー/シュナーベル/バックハウス/ルービンシュタイン/アラウ/ホロヴィッツ/ショスタコーヴィチ/リヒテル/グールド~』となります。人選は1)故人であること2)音源が残っていること3)ドラマチックな人生を送っていること-というもの。

 だから、ドラマチックな人生を歩んでいないケンプ、ゼルキンあたりが抜けているのかなと思いますが、ミケランジェリが入っていないのかなというのは不思議。

 というのも、全体の構成はラフマニノフから始まり、同じように故国を失ったユダヤ系ピアノニストのルービンシュタインとホロヴィッツの交友を軸に進むという、旧ソ連とナチスドイツの関わりというのが大きなテーマになっているんです。だから第二次世界大戦中はファシズムに対するレジスタンス運動の闘士としても活躍したミケランジェリが入れば、特に編年体で書かれる1933年から45年までの章が、より充実したんじゃないかと思います。

 中川右介さんは菅首相の盟友とも知られていますが、祖父は日共創立メンバーというインターナショナルな出自。ということで、「まえがき」の《「音楽に国境はない。しかし音楽家には国境がある」。二十世紀は国家というものが、とてつもなく重い時代だった》というのは印象的なフレーズです。

 考えてみれば、リヒテルなどもドイツ系ということもあって旧ソ連時代には鉄のカーテンの外にはなかなか出られず、初来日したのは大阪万博の時だったと思います。NHKでリサイタルを放映したのを見た記憶があるのですが、二十世紀はリヒテルぐらいの超大物でもなかなか西側で公演するのが難しいような時代でした。

 10人あげられた中で、好きなのは、もちろんホロヴィッツ。彼のはまった演奏を聴くと、他の人が弾いても物足りないというか、同じ曲とは思えないほど(聴き方が悪いのかもしれませんが、例えば『熱情』をホロヴィッツの後に、ドイツ本流のバックハウスあたりで聴くと気が抜けたような印象さえします)。

 そして、叔母が好きだったルービンシュタイン。個人的にといいますか、時代的にはショパンでもなんでも、最初はルービンシュタインで聴きました。ホロヴィッツとルービンシュタインはともに東欧出身のユダヤ人ピアニストですが、ポーランドで生まれたルービンシュタインは殆どの家族をホロコーストで失い、ナチスに協力したとしてフルトヴェングラーなども絶対に許そうとせず、彼がアメリカの交響楽団に客演しようとすると「もし客演を許すなら、二度と協奏曲などをシカゴとは演奏しない」とまで圧力をかけ、実際に公演をストップさせたというのには驚きました。

 ルービンシュタインは結局、グールドよりも何過ヵ月か遅く死ぬほど長生きし、目と耳が悪くなってピアノを弾けなくなるなると、抜群の記憶力を活かして口述筆記で自伝『華麗なる旋律』を残して95歳でなくなります。ホロコーストで多くの家族、親戚を失いますが、若い嫁さんをもらって子どもを何人もつくり、幸せな大往生でした。あまり、今となっては聴きませんが、CD95巻にもなるルービンシュタイン全集もありますし、聴き直そうと思います。

 コンチェルトで指揮者とテンポを合わせる難しさを、ほとんどのピアニストが感じていたというか、大指揮者になればなるほど、個性がぶつかり合って確執が生まれるんだな、とも思いました。

 意外な感じを受けるのはショスタコーヴィチでしょう。ほとんど自作自演の音源しか残っていないそうですが、爆演派らしいのでいつか集中的に聴いてみたいと思います。二十世紀はホロヴィッツが語っているように、主にビジネスの要素によって「ピアノの演奏と作曲は同時に存在しない。一方が他方を破壊する」(p.68)時代となってしまったのですから。旧ソ連関係でいうと、モスクワ音楽院の名教授でギレリス、リヒテルの師でもあるゲンリフ・ネイガウスがスタニスラフ・ブーニンの祖父だというのにも驚きました(ブーニンはどうしているんでしょうか)。

 あとはグールドが特に愛したというシュナーベルも真面目に聞いてみようかな、と思いました。

 しかし、一度でいいからこんな風にピアノを弾きたいです…。ホロヴィッツがアン​コールの時によく弾いたビゼーの“カルメン”の主題による変奏曲​(ホロヴィッツによる編曲)。

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