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July 24, 2011

『未曾有と想定外 東日本大震災に学ぶ』

Hatamura_mizou

『未曾有と想定外 東日本大震災に学ぶ』畑村洋太郎、講談社現代新書

 「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の委員長に就任した畑村"失敗学"洋太郎先生が《委員長になると、報告がまとまるまでは原発関係に関して、知り得た事実を自由にオープンにすることはできません、そこで駆け足でこの本をまとめることにしました》(p.9)ということで講談社現代新書から上梓されたのが『未曾有と想定外 東日本大震災に学ぶ』です。

 一読、情報満載ですし、視点もニュートラル。《風力発電、地熱発電なども見学に行きましたが、代替エネルギーとして代り得るほどの存在にはまだまだなりそうもない》《今後しばらくの間はこれなしではやっていけないのではないかと思っています》(p.149)としながらも、技術史の視点から、原発について現在考え得る様々な問題点を指摘しています。

 まずハッとさせられたのが津波の概念。《津波は「高い波」という表現より、「速い流れ」と考えた方が正しい》という河田恵昭関西大学教授の表現を紹介してくれたのですが、津波は秒速30メートル、時速にすると108メートルに達するそうです(p.25)。ですから、防潮堤なども簡単に破壊されますし、後で強調されるように、こうした建築物も、津波を止めるということよりも「いなす」ことを考えた方がいい、という考え方につながっていきます。そうしないと《災害の運動エネルギーとなるべき位置エネルギーを蓄積させ、いやが上にも災害を大きくするように》なってしまうという寺田寅彦が書いた通りになってしまう、と(p.35)。例えば田老地区の防潮堤は古いものは、津波をいなすように海に向かって凸型につくられていますが、新しい防潮堤は津波を受け止めるように凹型に造られたことなどから粉砕されています(p.39-)。

 1993年の北海道南西沖地震による津波で大きな被害を受けた奥尻島には4300人しか住んでいませんでしたが、当時はまだ財政事情もそれほど悪化しておらず、しかも阪神・淡路大震災も発生する前だったので930億円を投じて島全体を要塞化したような防潮堤がつくられたそうです。しかし、今の財政事情では、とても人口比でこんなにカネをつぎ込むのは難しいだろう、というのも納得的です(p.72)。

 しかも高所移転は実現しないだろう、という悲観的な見方も示しています。《欲得や便利さを求める気持ちが、恐れの気持ちに勝る》《もともと人間はそういう性質》だからです(p.77)。ここらへんの見方というのも、スッキリしていていいと思いますよね。まあ、ぼくも、たとえ日本が原発をやめても、中国、インド、タイ、インドネシアなどがやめるとは思えませんし、ならば、23日に起きた中国の高速鉄道のような事故を防ぐためにも、日本がオペレーションを含めて技術的な支援を行っていく、というのが、トータルで安全性を高めることだと思っているから(WTOの参加条件に原発禁止ということを盛り込めるならば話は変ってくるでしょうが)。

 さて、原発問題です。畑村さんは、原子力ムラの人々が、あまりにも「想定外」という言葉を軽々しくつかっていることを問題視しています(p.91)。こうしたことに世の中の人たちが「がっかり」していることの積み重ねが、原発に対する不信感を生んでいる、というわけです。

 そして「コンプライアンス」という言葉は「法令遵守」に矮小化すべきではない、と指摘します。Complianceという言葉を確かにリーダーズなんかで引いても、《外力をうけたときの物質の弾力性・たわみ性》なんて書いてありますが、畑村先生は《社会の要求に柔軟に対応する》というのが本来の意味だ、としています(p.100)。

 こうした姿勢がないから、99年の東海村の臨界事故、07年の柏崎刈羽発電所での周辺事故の教訓をいかせなかった、というわけです(p.106-)。

 こうした事故は原子炉本体ではなく「周辺」で起こっていることに畑村さんは注目します。

 例えばボイラーは発明されて事故が頻繁に起こったので、200年以上も安全率「5」で設計されていたといいます(負荷5倍まで耐えられるという意味)。畑村先生は、それにくらべると原発は中枢部分が「4」、周辺部分は「3」程度で運用されていたのではないかと見ており、そうだとするとあまりにも低い、としています(p.139-)。

 にしても、柏崎刈羽発電所の事故で火力発電を増やしたことによって2年半で1兆円を超える負担増を強いられた東電は、なんで、もっと対策を打たなかったんでしょうか?電力とズブズブの関係だった自民党政権では、やはり、こうした議論は封殺されていたんでしょうかね。

 まあ、それはさておき、なぜ、日本にこんな原発が建設されたのか、という問題についても、畑村先生は明確なストーリーを提示してくれています。

 日本は初の商用原発がつくられたのは1966年ですが、その5年前に完成したのが小説や映画の『黒部の太陽』でも有名な黒部川第四発電所です。関西電力は世界銀行から融資を受け、当時の資本金の3倍にあたる513億円をかけ、しかも171人もの犠牲者を出すという難工事で黒部ダムを完成させるのですが、得られた発電能力はたった34万キロワットでした。福島第一原発の一基100万キロワットというのが、桁違いの効率性であることがわかります(p.136)。

 あと、原発など危険な技術は日本お得意の「制御安全」の考え方ではなく、トラブルが起きてもあらかじめ機械の動きを安全の側に向かうようにするという「本質安全」の思想で設計して、安全を担保すべきだ、というのもは納得的でした(p.142)。

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