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June 03, 2011

『聖書を読む 新約篇』

New_testament_iwanami

『聖書を読む 新約篇』新約聖書翻訳委員会編、岩波書店

 だいぶ前の本なのですが、出た時に買うのを忘れていて、久々に思い出して、読んでました。

 岩波の新約聖書翻訳委員会のメンバーが翻訳作業後に行った落ち穂拾い的な文章を集めました、という感じの本なのですが、驚くなかれ188頁で2600円です。あまり本の値段には文句はいわないのですが、これは、ちょっと触れざるを得ないかな、みたいな。個人的に面白かったのが『「洗礼」と「十字架」 訳語はこれでよいか?』『終止符と全時的「今」 ヨハネ福音書一章3‐4節の翻訳によせて』ぐらいだったもので、つい…。

 さて、「洗礼」という訳語ですが、これはもちろんβαπτισμα(バプテスマ)で、水に沈めて溺れさせるというβαπτιζωという動詞からきています。そして、βαπτισμαには溺れさせられるという破滅的溺死のイメージもあり、溺死から起こす人としての、洗礼を授ける人が必要になり、それは人が自分で自分にβαπτισμαを授けることができない理由になっている、というあたりは論理的で面白かったですね(p.2-)。まあ、こうしたサクラメント(秘蹟)には興味がなかく、単に知らなかったからかもしれませんが。

 では、なぜこういう意味を持つβαπτισμαが、漢訳聖書から引きついだ誤訳ともいえる「洗礼」になったかというと、「罪から洗い清める」という理解が元々、西洋キリスト教の理解があったのと、6世紀以降は、完全に水に人を漬ける方式から、水をかける方式に変っていったから、というのもわかりやすい(p.5)。まあ、大量に入信者を受け入れる場合には、いちいち、水に浸していたんではハカがいかなかったでしょうからね。どっかに書いていた話ですが、第一次世界大戦中か第二次世界中、非キリスト教圏の捕虜だか徴用者に洗礼を受けさせるということになった時、あまりにも多いのでホースで水をぶっかけた、というのも読んだことありまして、いくらなんでもありがたくなさすぎたろ、と思いました。

 ま、それはおいといて。

 次に佐藤先生は「十字架」という言葉を検討します。日本語の十字架という言葉は美しいですが、本来、処刑道具であるσταυροs(スタウロス=杭)を美しいというのなら、いっそギロチンを身につけたらどうか、というあたりは笑わせてもらいました(p.8-)。また、当時、十字架刑を受けた人間はゴミために捨てられて処理されるか、禽獣の餌としてそのまま晒されるのが普通だったのですか、イエスの場合は、アリマタヤ出身のヨセフが埋葬してくれます。

 まあ、そんなむごい処刑道具である十字架がなんでキリスト教の美しいシンボルになったのかというと、その転換期の中心にいたのは、ご存じコンスタンティヌス大帝。マクセンティウスとの決戦(312年)の直前、コンスタンティヌスはσταυροsの神的徴を見てしまい、これを守護符として戦いに勝った、と。しかし、エウゼビオスの描写からも、これは軍旗の上の環の中にXとP(ギリシア語のキリストχριστοsの最初の2文字)を組み合わせた模様を付けたものにすぎなかった、と。そして、いつのまにかXが45度回転して+になった、と。しかも、コンスタンティヌス帝は、十字架刑を廃止したため、その残虐なイメージが薄れていたのも功を奏した、と。

 ラテン後のCRUXは語根不明で本来、十字という意味はない、というのも知りませんでした。

 ということで佐藤先生は、βαπτισμαには浸礼、σταυροsには杭殺柱などの語をあてることを提案していますが、まあ、いくらなんでも、これは厳しいでしょうかねw

 他のは、ぜひ、お読みください。

目次

1 「洗礼」と「十字架」―訳語はこれでよいか?
2 終止符と全時的「今」―ヨハネ福音書一章3‐4節の翻訳によせて
3 「小さくされた者たち」の共同体―原始キリスト教における「家の教会」と宣教
4 弱いときにこそ―パウロの「十字架の神学」
5 偽名で書かれた手紙―偽パウロ・公同書簡の意図と戦略
6 終末観と永遠の時―黙示文学のヴィジョン
異読・転釈解説集

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