『武村正義回顧録』
『武村正義回顧録』御厨貴、牧原出、岩波書店
出ていたのは知っていたんですが、なんとなく敬遠していたんです。でも、読み始めたら、政治とカネのところが、非常に素直で好感が持てました。どっちかというと、バルカン政治家というイメージですし、ぶっちゃけ息子さんのこともあるので、昔から嫌いな政治家でしたし、自社さが崩壊して落選後は忘れ去られていきましたが、御厨さんの番組なんかから復活し始めていますよね。不思議なパワーがあるんでしょうか。
武村さんは滋賀県知事から最初は無所属で衆議院選挙に出ますが、当選濃厚ということで前日に自民党から公認を受けます。晴れて当選して竹下幹事長のところに挨拶にいくと、「これは公認料だ」ということであとづけながら3000万円もらったというんです。その後、身を置くことになった安倍派の安倍晋太郎さんのところに挨拶に行ったら、派閥として2000万円もらったほか、他の派閥の親分からも100万円から200万円をもらったといいます。さらに安倍派の有力者である塩爺など"四天王"からも100万円から200万円をもらった、と。《選挙で一億円ぐらいかかったのか、数字は覚えていませんが。それでかなりカバーできるんです》ということでした。さらに、盆暮れにも自民党は300万円から500万円のカネをくれる、と。
このほか、議員報酬や文書通信費などももらっているのですが、東京で運転手を含めて3~4人、地元に10人ぐらいを置くと、その人件費だけで数千万円になってしまい、《選挙がなくても一年間に一億ぐらい要るわけです。そこに飲み食いをやらせたら、すぐ二億、三億になる》《表の議員活動とは別に、仕事の陰で金をどう賄うか、どこから献金をいただいて安定させるか、というのは新人議員の大テーマなんですね。そこで失敗して、いろいろな利権に手を出したりすることも起こりがちです》(pp.14-18)というあたりは淡々と語られているだけに、すごみがあります。
もうひとつリアリティを持って語られているのが当選回数。国会議員以外で培ってきた、例えば官僚、ジャーナリスト、地方議員としての仕事というのは《何の評価もされない》(p.27)というのです。《大きな宴席があっても、どこに座るか。一人でも二期生がいたら、下がって後ろに座る》というようかなことを新人議員は覚えなければなりません。
笑っちゃいますが、民主党なんかでも、こういのうが残っているんですわ。特に当選回数は3~4回に達しているけど、みるからに能力のなさそうな議員に限って「おれは何回当選だ」といって威張っている。アホか、と悲しくなります。
ま、そんなことはおいときますが、だから同期当選組というのはYKKなどのように、一種独特の共同体意識を持つようになるんでしょうか。
思い出話で面白かったのは安倍晋太郎と晋三の比較。晋太郎さんは実父が翼賛選挙の中で非推薦で当選したことを自慢していたんですが、晋三の方はこのお爺さんのことは一言もふれずに母方の岸信介のことばかり話していたいうあたりは、いかにも、内容のないこの元首相の性格を表しているな、と感じました(p.34)。
あと、宮澤さんが「武村さん、小選挙区は日本人の体質に合いますかね」と話していたというのも印象的(p.42)。
また、旧社会党に関して《社会党はその立場になったら柔軟で、柔軟すぎて損したかもしれません》というのもなるほどな、と(p.132)。そしてコメ開放でも妥協したことが小沢さんの判断を誤らせて、崩壊につながっていくという(p.162)。また、今の民主党政権にもつながっていく話だと思うんですが、細川政権から自社さにかけて、政府の審議会や委員会のメンバーの連合を中心としたメンバーがどんどん入ったことが、大きな経験になったと思います(p.138)。
武村さん個人についていえば憲法九条に関して『昭和の三傑 憲法九条は「救国のトリック」だった』堤堯、集英社インターナショナルなどを引きながら「九条 幣原説」を唱えて、押しつけ憲法であるという説に反論しています(p.99)。
鳩菅に関しては、鳩山さんは「さきがけ」の運営の中で、どうも外されていたという感覚を持つようになって、やがて出て行くことになるという話と(p.234、インナーサークルは武村、田中秀征、園田)、菅さんは4人ぐらいでやっていた社民連の中で世代的ににも一人浮いていることが多く、さきがけに参加した、というあたりは面白かった。
個人的に驚いたのは四元義隆が晩年には鎌倉の円覚寺に住んでいたこと。武村さんが心臓パイパス手術を受けて退院した後、禅寺のうどんを食べさせてやるから、ということで招かれたら、細川元首相も来て歓談したというんですね(p.325)。
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