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June 22, 2011

『思想としての3.11』

Theoly_of_311

『思想としての3.11』河出書房新社、吉本隆明、鶴見俊輔、中井久夫、木田元ほか

 東日本大震災に関しては、業界ごとに「喪に服す」ような感じで様々な本が出ていますが、ややオールドな感じの思想業界からも出ました。

 ここに書かれている8割ぐらいの方には興味がないんですが吉本隆明さん、鶴見俊輔さん、中井久夫さん、木田元さんのが読めればいいや、というので購入しました。

 印象に残ったのは、やはり吉本さんの「これから人類は危ない橋をとぼとぼ渡っていくことになる」でしょうかね。「ほぼ日」ぐらいしか3.11以降も発言がなくって、特に原発問題に関しては語っていなくて、これはしょうがないかな…と思っていましたが、ぼく個人としては、ほぼ言ってくれるだろうな、と思っていたことを語ってくれていた、という感じです。

 吉本さんには、まあ、明るい科学万能感があって、それは科学に対する暗い見通しを語る人たちよりも、数百倍いいと思っていました。

 今回のことに関しても、タイトルの通り「これから人類は危ない橋をとぼとぼ渡っていくことになる」ことになるかもしれないけど、しかし「その道を行くしかないのですね」というものでした。

 印象的だったところを引用します。

 原子力はそれを最終的には戦争に使うために貯蔵することも、また多面的な利用もできるし経済的な利を得るために開発することも、見方を変えればいくつもの目的があるわけですが、もっとも根本的には、人間はとうとう自分の皮膚を透過するものを使うようになったということですね。人間ばかりでなく生物の皮膚や骨を構成する組織を簡単に通過する素粒子や放射線を見出して、物質を細かく解体するまで文明や科学が進んで、そういうものを使わざるを得ないところまできてしまったことが根本の問題だと思います。それが最初でかつ最後の問題であることを自覚し、確認する必要があると思います。武器に使うにしても、発電や病気の発見や治療に使うにしても、生き物の組織を平然と通り過ぎる素粒子を使うところまで来たことをよくよく知った方がいい。そのことを覚悟して、それを利用する方法、その危険を防ぎ禁止する方法をとことこんまで考えることを人間に要求するように文明そのものがなってしまった。素粒子を見つけ出して使い始めた限り、人間はあらゆる知恵を駆使して徹底的に解明してゆかないと大変な事態を招く時代になってしまった。原子力は危険が伴いますが、その危険をできる限り防ぐ方法を考え進めないと、人間や人類は本当にアウトですね。(中略、しかし)その道を行くしかないのですね。

 後は中井久夫さんの「戦争から、神戸から」では、福島原発で働いている人たちの食事がビスケットとジュースだけだったというのを聞き、食事は相手に対する評価だとして「腹がたった」と書いているのが印象的。『復興の道なかばで 阪神淡路大震災一年の記録』では、阪神大震災の時に地方から駆けつけてくれたボランティアの医師たちに対して「ヘイタイには食わさにゃ」といって食事を振る舞っていたシニアの医師たちのことを紹介していただけに心配になったのでしょう(p.126)。

【目次】
●佐々木中/砕かれた大地に、ひとつの場処を
紀伊國屋じんぶん大賞2010受賞記念講演「前夜はいま」の記録
●鶴見俊輔/日本人は何を学ぶべきか いま心に浮かぶこと
●吉本隆明/これから人類は危ない橋をとぼとぼ渡っていくことになる
●中井久夫/戦争から、神戸から
●木田元/技術はもう人間の手に負えない?
●山折哲雄/二つの神話と無常戦略
●加藤典洋/未来からの不意打ち
●田島正樹/はじまりもなく終わりもない
●森一郎/世界を愛するということ
●立岩真也/考えなくてもいくらでもすることはあるしたまには考えた方がよいことがある
●小泉義之/出来事の時 資本主義+電力+善意のナショナリズムに対して
●檜垣立哉/自然は乱暴であるにきまっている
●池田雄一/われら「福島」国民 3・11以降を生きるためのアジテーション友常勉 労働=生の境界に際会して 3・11をめぐる備忘録
●江川隆男/中間休止と脆弱さの規模 天災と人災の究極的融合について
●高祖岩三郎/3・11以降の地球的アナキズム
●廣瀬純/原発から蜂起へ
●『来たるべき蜂起』翻訳委員会/反原発のしるし

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Comments

単なる質問です。
加藤典洋さんは「ここに書かれている8割ぐらいの方には興味がない」に含まれていますか?

Posted by: pleo | June 22, 2011 at 11:29 AM

pleoさん、どーも。風邪をひいていたりして、気づきませんでした。すいません。
で、ご質問の件ですが、ええ、といいますか、一冊も本を読んだことはございません…

Posted by: pata | June 25, 2011 at 02:35 PM

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