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May 18, 2011

『東京―ワシントンの密談』

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『東京―ワシントンの密談』宮澤喜一、中公文庫

 大して期待せずに「まあ、御厨貴さんの本で聞き語りを再読したし、未読の基本文献だから読んでおくか」みたいな感じで読んでいったんですが、敗戦直後の日本政治史という面の面白さよりも、ドッジラインが出てこざるを得なかった経済状況と、アジア諸国への賠償がからんだガリオア(GARIOA=Government Appropriation for Relief in Occupied Area、占領地域救済政府資金)の話しが緊迫感を持って語られていたところが新鮮でした。

 ぼくの勉強不足なんでしょうが、ドッジラインには、敗戦直後の経済混乱の中で急にドッジがやってきて財政金融の引締政策の方向に舵をとり、その結果、不況が引き起こされて49年7月6日の東証平均株価は史上最安値となる85.25円を記録した、なんていうフワッとした印象しかありませんでした。

 その当時の日本経済のことを宮澤さんは「詳しい説明に入るつもりはないが、比較的若い方々の御参考に一言申すと」と前置きした後、以下のように、鮮やかに描き出します(p.20)。

 当時の産業の実情は、あらゆる物質について公定価格が定められており、しかも産業の基礎になる鉄とか肥料とか石灰などの生産費は、会社によって相違はあったが、ほとんど総べて公定価格を上廻っていた。だから、政府としては消費者のために公定価格を維持する必要上、生産者にコストが公定価格を上廻る分だけは、補給金をやらねばならなかったのである。
 それから又、日本が輸入する物資についても国内で低価格を維持する必要上、同じような意味で輸入価格と公定価格との差額を政府が補給しなければならず、日本から輸出する物質の価格は、国際価格より高ければ、その高い部分だけ政府が差額を補給して、外国製品と競争しうる価格で輸出させていた。

 というメチャクチャをやっていたんですね。だから、ドッジは日本経済は「竹馬の脚」に支えられていると批判し、その脚を切って地に足をつけさせなければならない、と主張した、と。いやー、恥ずかしながら知りませんでしたよ。で、これがニューディーラーたちが中心となって進められてきた占領政策の転換点になっていくわけなんですね。

 ドッジは「行き届いた失業対策は失業者をつくる」(p.27)とか、「労基法があるなら、日本なんかに来なかった」なんていうことまで言うハードライナーなんですが、宮澤さんが描くその人間像はなんとなく憎めない感じがします。逆に宮澤さんの嫌悪感が出ているのがGHQ。マッカーサーは批判には極端に神経質だったと切り捨てますし(p.42)、取り巻きだったウィットニーに対しては、マッカーサーが罷免された後もニューヨークのホテルに設けていた「私設マッカーサー司令部」に顔を出している、と揶揄しています(p.80)。これなんか、強烈な皮肉ですよね。

 それはさておき、50年8月には「衣料切符」も廃止されるなど、日本経済は落ち着きを取り戻します(p.72-。これはもちろん朝鮮戦争のおかげでもあるのですが)。

 まあ、この当時は中国や朝鮮半島の情勢も緊迫感を増しており、アイケルバーガー中将などは「ソ連がのさばるぐらいなら、ヨーロッパは独逸にやってしまう、アジアは日本に頼む、その方がどれだけ良かったか知れない」とまで語るようになっていたわけですが。

 しかし、アメリカの外交政策というのは大統領の任期にどうしても縛られますよね。なんか4年単位ぐらいでした見通せないというか。まあ、それが人間の限界なのかもしれませんが、振り回される方としてはたまったもんじゃありませんよね。

 この本は、吉田首相の特使として池田勇人が米側に対して、アメリカの軍隊が日本に駐留することを日本側からオファーしてもよい、と述べたあたりが重要だと言われていますが、独立にもっていくためには基地問題とともに、ガリオアなども、うやむやにしなければならなかった、というあたりも面白かったです。

 敗戦直後の日本人向け生活必要物資の緊急輸入は総額18億ドルにも達しましたが、日本政府は粘り腰をみせて、経済成長がなった後、1962年に約5億ドルの返済協定を結んだそうです。

 また、1ドル=360円と決められたレートも1953年のホンコンの闇相場では、1ドル=442円にもなっていたというのは知りませんでしたね。それが、いまや、巡航速度で80円なんですから…。

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