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May 13, 2011

『悲劇の名門 團十郎十二代』

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『悲劇の名門 團十郎十二代』中川右介、文春新書

 五代目團十郎家訓「おれさへ出れば見物嬉しがるといふ心がよし。われも役者かなぞといふやうな心もち。皆々目の下に見くだし、蟲のやうに思ふがよし」

 歌右衛門、玉三郎、カラヤンなど「クラシカルなスーパスター評伝」を厖大な参考文献から紡ぎ出すという手法が得意の中川右介さんの最新作は、初代市川團十郎生誕350年という記念すべき年に1年遅れで上梓されました。なかなか、まとまった読み物として團十郎十二代といいますか、市川宗家の歴史を扱ったものは少ないので、楽しんで読めました。

 初代の生誕350周年ということですので、本来でしたら団菊祭も大規模に行われるなどのイベントがあったハズですが、松竹の2010年は歌舞伎座のさよなら公演で忙しかったらしく、著者も『昭和45年11月25日-三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』幻冬舎新書の執筆に思ったよりも時間がかかったということから、今年4月の刊行となったそうです。

 昨年末に出していれば売れたのに…と本人もあとがきで書いていますが、昨年末に海老蔵が西麻布でモメ事を起こしたというのは記憶に新しいところ。

 海老蔵事件も大きく取り上げられましたが、この本を読むと「市川宗家」の御曹司は、歌舞伎界のトップに座らなければならないというプレッシャーからか、血筋は断絶していても、トラブルメーカーであることを引き継いでいるな、という印象です。

 しかも、舞台上で刺されて死んだ初代や、当時の社会通念上はOKだったにせよ別れた若衆に少年の売春宿を経営させていた四代目、発作的に自殺した八代目などと比べれば、昨年末の海老蔵事件なんぞ小ぃせぇ、小ぃせぇという気がしてきます。

 個人的には、初代の團十郎が築いた勧善懲悪をベースにした荒唐無稽な荒事よりも、同時代の藤十郎とコラボした近松門左衛門の「和事」の方が好きなのですが、地元の成田山に祈願したから子供が授かったなどとPRするタイアップ戦略などが見事にはまり、團十郎という名はスーパースターとなっていきます。さらには、観客が見ている舞台上で役者仲間から本身で刺されて殺されるという衝撃もあり、若い二代目も悲劇のスターとして再デビューを果します。そして、その名は中村勘三郎、市村羽左衛門、守田勘弥といった座頭の名前をも凌駕していくのです。

 二代目には江嶋生嶋事件の江嶋も一目惚れして小袖を贈ったそうで、その杏葉牡丹の紋(本来は近衛家の紋)は、市川宗家の"替紋"にもなります。こんなところもスキャンダラスですよね。さらに、舞台上のケンカで「暫」の型ができた、なんていう話も面白かった(p.60-)。二代目はリアルに給金が「千両役者」になります(p.64)。まあ、今では約4000万円ぐらいだと思いますが、当時としてはたいしたもんだったんでしょうね。

 二代目は大阪の佐渡島座で女形・尾上菊五郎と共演、あげくに江戸に連れて帰りますが、せっかく襲名披露したばかりの三代目が22歳の若さで亡くなるという悲劇が市川宗家を襲います(p.76)。

 空位になった團十郎は、12年後に二代目松本幸四郎が四代目として継ぐことになります。現在の市川宗家も、長い間の空位を経て、十一代團十郎を襲名したのは松本幸四郎の長男でした。ともに血縁は途切れていますが、市川宗家の跡継ぎは高麗屋から出るというのは不思議な縁だな、という感じです。

 そして四代目は再婚の際、身辺整理のため、男の若衆と別れなくてはならなくなります(ちなみに、当時の社会常識では問題ありません)。しかし、分かれた男が女形として役者になるのも業腹なのか、なんと、この若衆にはカネを渡して男の子たちが女装して春を売る「かげま茶屋」を経営させます。《初代や二代目は買春はしても、売春業の経営には関与していなかったので、その点でも、四代目は異色の團十郎だった》というあたりは笑いました(p.98-)。市川宗家やるじゃん、みたいな。

 少し飛びますが、七代目は「十八番」を整理します。その台本は箱に入れて門外不出としたところから「おはこ」と呼ばれるようになったというんですから、市川宗家の日本文化への影響は言語そのものにも及んでいますよね(p.194)。

 また、二枚目だった八代目は切られ与三で大ブレークしますが、その年にペリーが浦賀にやってきます。そんな八代目ですが、なぜか30歳を前に謎の自殺。

 明治四年には当時のエスタブリッシュトとしては初めて山内容堂公が勧進帳を観劇、後に劇聖とよばれる若き日の九代目は感激、歌舞伎の高尚化をめざすことになります(p.221)。

 それ以降、今の團十郎と海老蔵につながる話しは、ぜひ、手にとってお読み下さい。

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