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May 08, 2011

『知と情 宮澤喜一と竹下登の政治観』

Miyazawa_takesita

『知と情 宮澤喜一と竹下登の政治観』御厨貴、毎日新聞社

 宮澤さんも、竹下さんも御厨貴さんのオーラルヒストリーは読ませてもらいましたが、ほぼ同年代でありながら、(例えば中国や米国からみれば同じという意味で)微視的にみればかなり違った二人の政治家の歩みを、これまた御厨さんがインタビューした福本邦雄さんのオーラルヒストリーを補助線として交えながら再構成したのが、この本。インタビューの二次利用だけど、大物政治家の話というのは、それだけ味わい深いものなのかな、とも思いました。

 改めて感じたのは、年代別に再構成されることによって「語られないこと」が浮かび上がったこと。宮澤さんに関していえば、敗戦直後、英語がバツグンに出来るということから担当させられたGHQとの交渉の話しや、鈴木善幸内閣の官房長官の時については口をつぐみます。

 フィクサーともいうべき福本邦雄さんは90年代の日本の政治は、保守派とリベラル派が、中立点である経世会を引きずり込もうとして、ずっと政争を繰り返していたとみているのですが(p.22)、その中立点を維持していたのは竹下さんの、かなり意識的な努力だったんじゃないかとも思いました。

 二人に共通しているのは、ブレーンを持たなかったこと。宮澤さんは頭が良すぎるし、竹下さんは、中曽根大勲位などが使っていたブレーンを60年代の全学連くずれと見なしていたからだ、というのは面白い指摘だと思いました(p.26)。竹下さんの若き日の自己認識は「進歩的地主」(p.59)。母親が福本イズムの福本和夫の影響を受けていましたが、意識的に左派は避けて、中立の立ち位置を守ろうとします。

 二人の青年時代はまったく違います。宮澤さんは、大蔵官僚のエリート中のエリートとして、二十代そこそこの時期に敗戦を経験し、後に首相となる池田勇人の下でGHQ支配と吉田政治に関わったのですが、若い時期にこうした体験ができたのは《明治時代の元勲政治家以来ではないでしょうか》というにはハッとしました(p.52)。後に大蔵官僚から政治家に転じる際にも、この間の記録を『東京‐ワシントンの密談』としてまとめるための時間をまずは参議院議員になってたっぷりとってから、衆議院に転じます。その後も、池田首相とケネディの会談の際にも随行して、外務省の役人をいれずに沖縄問題について話し合ったヨット会談にも同席し、後に自身が外務大臣になった時に、その時の記録が残っていないことに気づいたりします。つまり、自身が戦後史のレジェンドなんですね。

 また、改めて自民党の派閥というのを今から見てみると、必ずしも自民党総裁候補を担ぐというのを目的としてつくられたのではなく、それぞれ様々な経緯から自然発生的に出来上がったグループなんだ、というのもわかります(p.107)。例えば、宮澤さんは、宏池会の中でも子分を養うようなことはせずに時の首相から請われて経済政策を担当するような形で首相候補としての頭角を表していきますが、逆に竹下さんは、どっぷりその中につかることで、首相の座を射止めます。

 また、竹下さんは佐藤派だったということを最後まで意識していた人で、田中角栄が、自分の名前を堂々と書いてカネを渡していたということに違和感があったと語っています(p.123)。

 《今日も朝から打ち合わせ。会議に続くまた会議。その上二度の記者会見。官房長官名を変えて、繁忙長官とでも申しましょう。時にはなります、乱暴長官。私も人の子、お許し下さい。読み人知らず》(p.182)なんて軽みを持って重要閣僚の仕事を描写するあたりは、竹下さんの真骨頂でしょうか。

 《用意周到、かつ首相辞任と引きかえに消費税をともかくも実現した竹下流リーダーシップは、後世もっと評価されるべきだと思います》というのには納得します(p.208)。

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