« 『ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋』 | Main | 恵比寿・天童の五目焼きそば »

February 20, 2011

『日本代表の冒険 南アフリカからブラジルへ』

Adventure_of_japan

『日本代表の冒険 南アフリカからブラジルへ』宇都宮徹壱、光文社新書

 司馬遼太郎さんは『明治という国家』の中で、「よくやった過去というものは、密かにいい曲を夜中に楽しむように楽しめばいい」と書いています(p.211)。

 社会的な組織でもサッカーの代表チームでも、長い間、苦労が結果として報われない中で、密かに決意を固めて頑張ってきた集団が、ふいに望外の成功を収めるという物語を、時々は密かに味わうことは許されると思います。

 すっかり忘れられているかもしれませんが、南アフリカワールドカップの前、日本代表チームに対しては、三連敗だけはしないでくれ、というような悲観的な見方が広まっていました。中には、代表チームの敗北を求めるみたいな"評論家"もあらわれる始末で、そうした評論が紙面に載るということ自体、口には出さないけれども悲観的な見方がどれほど広がっていたかを表していたと思います。

 ぼく自身も「もうここまで来てしまったんですから、後は日本代表を精一杯応援し、強豪国のプライドをかけた戦いを堪能し、南アというまだまだ未知の国を少しでも知りたいと思います。とにかく、愛する日本代表が一勝でもしてくれれば、さらに、もし万が一決勝ラウンドに進めたら、たぶん夜中でも外に出て騒いじゃいますよ」みたいなことを書いていたぐらいで、とても、ベスト16でPK戦までもつれるような接戦を演じるとは思ってもみませんでした(代表ユニフォームも勝ち進むまでは全く売れていませんでしたもんね)。

 実際、メディアでもサッカー関連の予算は削られ、有名なサッカライターでも現地取材を断念するような人もいたほど。

 だから、宇都宮さんのように、楽天的といいますか、コンフェデレーションズカップなどで訪れていた南アの素晴らしさを伝道師のように語る向日性を表現していた人は本当に少なかったと思います。

 考えてみれば、南アワールドカップ自体も「アフリカの国にあんなビッグイベントを運営できるのか」とか「犯罪が多すぎて安全面を考えても代替地でやるべきだ」という論調に充ち満ちていました。

 そういった意味では、日本代表も南アワールドカップも、前評判を覆すような鮮やかな本番でのパフォーマンスを見せてくれたのですが、宇都宮さんのこの本は、現地から毎日、インターネットメディアに寄稿していたライブ感を残しつつ、しばしの間、幸福感に浸っていたあの頃を再び味あわせてくれます。

 ほんの1ヵ月前までは「日本、弱いね」とか「何で岡ちゃんが監督なの?」といったことを平然と口にしていた連中が手のひらを返して浮かれていることに、きっとあなたはにこやかに対応しつつ、心の中では舌打ちをしていることだろう。そんなあなたの状況が私にはとてつもなく羨ましい。
 いずれにせよ、これで日本代表の冒険は、まだしばらく続くことになった。こうなったら、この冒険が続く限り、われわれもとことん付き合い、喜びと落胆を共有しようではないか。
 かく言う私も一仕事終えたら、ひとり静かに祝杯を挙げることにしたい。

 というデンマーク戦後の結びの文章は、一瞬だったにせよ、とてつもなく幸福だった、あの瞬間のことを思い出させくれます(代表を応援していて、同じぐらい嬉しかったのは、ジョホールバルのアジア第三代表決定戦と28年ぶりにオリンピック出場を決めたシャーアラムスタジアムでの勝利ぐらいです)。

 また、南アにおける普通の人々が示してくれたホスピタリティも素晴らしいものだったな、と感じることができます。印象的だっのは、ヨハネスブルグのゲストハウスで、朝食のスクランブルエッグを運んでくれた宿の女将さんが、日本代表のマフラーをしてくれていたというさりげない出来事。《こういうちょっとした心遣いは涙が出るほど嬉しいものだ。私が礼を述べると、彼女はにっこりほほ笑んで右手親指をぐっと突き出してみせた》というあたりはいいなぁ(p.87)。

 宇都宮さんは写真家でもありますが、35枚のカラー写真も素晴らしいものばかり。

 366ページという新書にしては大部な本ですが、多幸感とともに読み終えることができました。

|

« 『ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋』 | Main | 恵比寿・天童の五目焼きそば »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/50927814

Listed below are links to weblogs that reference 『日本代表の冒険 南アフリカからブラジルへ』:

« 『ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋』 | Main | 恵比寿・天童の五目焼きそば »