« 廖家牛肉麺屋の自取 | Main | ぶどう酒食堂さくらのピッツァ »

February 13, 2011

『戦争と日本人 テロリズムの子どもたちへ』

War_and_japanese

『戦争と日本人 テロリズムの子どもたちへ』加藤陽子、佐高信、角川ONEテーマ21

 意外な二人の対談ですが、「仁義なき戦い」のシナリオライターである故笠原和夫氏が好きだ、ということが縁となったとのこと。

 加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を元に、なぜ日本人はさきの大戦で当事者意識が希薄で、被害者意識が強いのか、という問題を深く掘り下げて語っています。

 加藤陽子さんが最初に書いている「対談のねらい」が素晴らしい。要約すると、以前の日本は、世界全体の8割ぐらいの発展途上国を搾取すればよかったけど、グローバルによって国の中で2割の富裕層が8割の低所得者層を搾取するしかなくなった、と。それによって、凶悪犯罪の件数は少なくなってきているものの、国内での治安に対する「体感の不安度」が増している、と。

 そして「テロリズムの子どもたちへ」という副題に関しても解題しています。それは、日本では戦前からテロに倒れた政治家は、経済では国際主義、外交では協調主義、内政では議会主義を唱えた人たちが多い、と。原敬が19歳の少年に暗殺された時、大杉栄は「やったのは子供なのだね」とつぶやいたが、去年の尖閣事件でバカみたいに騒いだ日本人も、協調路線を唱える人々を中国に屈したと非難しまくった、と。

 原敬だけでなく、満州事変を日中間の二国間交渉で解決しようとした犬養毅や浜口雄幸、高橋是清、井上準之助なども、尖閣で騒いだような「子ども」に殺されたわけで〈天をめぐらす器をもった回天の政治家が、「子ども」たちに暗殺されてしまうことなど一切ないように願いたい〉としています。

 テーマである、日本人はなぜ戦争を選んだのか、という問題に関しては、例えば、国防婦人会について語られます。着物の上に白い割烹着を着ることで階層差が隠され、農村の女性も都市の芸者さんや女給さんも兵士の見送りや駅でのお茶のお給仕という、晴れの舞台に行ける、と。♪ああ あの顔で あの声で 手柄頼むと 妻や子が ちぎれる程に 振った旗 遠い雲間に また浮かぶ♪と「暁に祈る」をたすきがけで歌いながら出征兵士を見送ることは、前向きな明るいこととだったんじゃないか、と(p.29)。そして「台所から出る」というコンセプトで爆発的に組織化が進んでいく、と(p.130)。

 殿山泰治は『三文訳者のあなあきい伝』で、国防婦人会などは出征する自分に「死んでこい」と言っていたが、遊郭の女だけが生きて帰って来いと言ったという話を紹介しているそうです(p.111)。

 初めて知ったデータもいろいろありました。たとえば、太平洋戦争では徴兵検査を受ける壮丁の79%が徴収されたんですが(p.21)、この徴兵で行かされたということと、太平洋戦争の最後の1年間で大部分の戦死者を出したという負け方の悲惨さが、日本人が戦争責任を「わがこと」として認識しにくい原因じゃないか、というあたりも納得的です(p.62)。

 そして戦後、日本が平和国家に生まれ変わることができたのは、敗戦1年前ぐらいからの兵士と一般国民の悲惨さがあまりにも酷かったため、軍と国が国民の信頼を完全に失ったからであり、国民の呆れ方が徹底していたから180度コロッと変れたというのも、わかりやすい説明だと思います(p.65)。

 そして、敗色濃厚になっていく過程で表面化してきたのは、徴兵率の高まりなど「不幸の均霑(きんてん)」だと加藤さんは語っています(p.69)。それまでは徴兵されなかった学生なども入営させられることで、「みんな均等に不幸だから、まあいいか」という社会になっていった、と(p.71)。

 これと対照的なのが中共。中共は帝国としての戦争をまだやってない、というんです。つまり、総力戦で社会が変わった経験をしていない、と。《これは逆説的ないい方かもしれませんが、だから逆に民主主義が遅れているのかもしれません》という指摘にはハッとさせられました(p.179)。

 戦前の総力戦体制によって、戦後の日本経済が形作られたという話は定説になりつつありますが、同様に平等に不幸になるという経験をしないと、民主主義は生まれないという話もそうなるかも。

 小沢一郎は総選挙前に原敬の墓参をして「大改革を進めると、どういう目に遭うか分からないが、郷土の大政治家である原先生も愚かな者の手に倒れるまで、日本の政治のために頑張った。自分としてもそのような志を継いでやりたい」と語ったとのこと。クリーンなタカ派より、ダーティなハト派をと主張している佐高信さんが、石原莞爾にホレ込んだ市川房枝を批判することで、その弟子である菅首相を批判しているところも面白かった。

 富国生命や大和生命が徴兵保険業の会社だったというのは初めて知りました。

 また、韓国の朴正煕大統領は二・二六事件で決起した日本の青年将校を見習えと叱咤していたという話には、驚きました。朴大統領は師範学校の学生時代、配属将校から「二・二六事件の首謀者の磯部浅一こそ軍人の鑑だ」と言われていたそうです(p.78-)。

 また、我々はCIAやFBIのインテリジェンスは最高だと思っているけど、30年代後半から真剣にやり始めるものの、それまでは「だだ漏れ」に近かった、という話も印象的でした。

 日立の企業ぐるみ選挙をえがいた『わが社のつむじ風』浅川純、『周恩来キッシンジャー機密会談録』は読んでみたいなかな、と。

 中国のパンダ外交は1941年から始まっているというのも知らなかったな。

 実に情報満載の面白い対談でした。

 加藤さんは講談社から出ている『天皇の歴史』シリーズの八巻で書く昭和天皇篇が楽しみです。

[目次]

序章 世の中をどう見るか?―歴史に対する眼の動かし方
第1章 政治と正義―原敬と小沢一郎に見る「覚悟」
第2章 徴兵と「不幸の均霑」―「皆が等しく不幸な社会」とは
第3章 反戦・厭戦の系譜―熱狂を冷ます眼
第4章 草の根ファシズム―煽動され、動員される民衆
第5章 外交と国防の距離―平和と経済を両立させる道を探る
第6章 「うたの言葉」から読み解く歴史―詩歌とアナーキズムと
終章 国家と私―勁く柔軟な想像力と、深き懐疑を携えて

|

« 廖家牛肉麺屋の自取 | Main | ぶどう酒食堂さくらのピッツァ »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/50863137

Listed below are links to weblogs that reference 『戦争と日本人 テロリズムの子どもたちへ』:

« 廖家牛肉麺屋の自取 | Main | ぶどう酒食堂さくらのピッツァ »