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January 14, 2011

『がん 生と死の謎に挑む』立花隆

Tachibana_gan

『がん 生と死の謎に挑む』立花隆、NHKスペシャル取材班、文藝春秋

 09年11月23日に放送された『NHKスペシャル 立花隆思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』は印象に残る番組でした。立花さんが「はじめに」で書いているのですが、この番組の前には「がんとはそもそもいかなる病気なのかというがん本質論に真っ向から取り組んだ番組は、驚くべきことにこれまでたたの一本もなかった」というんです。確かに、その発生のメカニズムも含めて、わからないことだらけではあるけれど、細胞分裂を繰り返す多細胞生物が生きていくこと自体ががんを生むのであり、これまで生物が生き抜くために使ってきたスキルを総動員してがんも生きようとするから、根治は難しい、という知見を得ることができました。

 さらに、この本によって、番組を見ただけでは「もしがんになっても抗がん剤だけは飲まないぞ」と思いこんだことを訂正することができました。それは血液のがんには効くということと、手術した直後にバラまかれてしまった微小ながん細胞を殺すためにの抗がん剤は必要だということ。でも、他のがんに対しては、せいぜい余命を二ヵ月ぐらい延ばすだけということなので、基本、QOLを保つためにも使いたくないな、という判断は変わりませんでしたかね。

 あと、NHKスペシャルでよくわからなかった「パスウェーマップ」(がんに至る情報経路)と抗がん剤の意味も理解することができました。それはヒトの細胞の中ではパスウェーの迂回路がすぐにできてしまうから、抗がん剤はすぐに効かなくなる、という意味だったんですね。あまりにもパスウェーは複雑であり、さらに毎日のように新しいパスウェーが発見されるので、全体像もつかみにくくなっているほどだそうで、まだまだ、がんの克服なんて、難しいわな、という感じです(p.47-)。

 ヒトの身体は60兆の細胞が新陳代謝しているそうですが、DNAのコピーは少なくとも10の18乗以上、一京以上だろうといわれており、それならばコピーミスによって、変異が起きるのも仕方ないかな、と(p.57-)。また、抗がん剤は細胞分裂が活発ながん細胞の分裂を止めさせようとするものですが、だから、身体の中で最も細胞分裂が激しい毛根が抜けてしまうんだな、ということも理解できました(p.64)。

 この本で得た最大の知見は、がんの八割以上は上皮がんだということ。あらゆる臓器は粘膜質の皮膚で覆われており、肉腫や骨腫もあるけれども、新陳代謝が激しい粘膜部分でがんは発生しやすい、というんですね(p.66)。

 ぼくが思い出したのが丸山ワクチンのことを書いておられた中井久夫先生の『臨床瑣談』。丸山先生は皮膚癌の研究者で、皮膚がんは観察することが容易だから「繊維芽細胞が動員されてガン細胞の塊を囲い込み、やがて繊維化して、ガン細胞が兵糧攻めにあう」(p.104)というようなことを見ることができるというあたりの説得力は素晴らしいな、と思ったのですが、なんのことはない、8割が上皮がんだということは、丸山ワクチンの有効性に対する個人的な評価はまた高まったな、という感じです。

 内容が豊富すぎるので、もう一回ぐらい書きます。

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