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January 13, 2011

『リトル・シスター』

Little_sister

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー、村上春樹(訳)、早川書房

 村上春樹訳のマーロウものの第三弾は、これまで、違和感が漂っていた『ロング・グッドバイ』『さよなら、愛しい人』とは違って、清水俊二訳で読んだイメージとほとんど変わらない印象を受けました。

 『ロング・グッドバイ』『さよなら、愛しい人』では、まず、その長さに驚きました。清水俊二訳がこんなにはしょっていたのか、と。

 でも、その事実に慣れたのか、今回はあまり違和感を感じませんでした。

 「訳者あとがき」で書いているんですが、ぼくも、この作品の素晴らしさは、マーロウに捜査を依頼しにやってくる、オーファメイ・クエストの描写だと思います。なにせ、学生時代に、ここのところと、リュー・アーチャーの『縞模様の霊柩車』の比較なんつうのをやっているんで、印象に残っているんです(エヘン)。

 印象的な登場シーンを清水訳と村上訳を比べてみるとこんな感じ。

 清潔そうな感じの小柄な娘で、鳶色の髪、褐色の服、それに、縁なし眼鏡をかけ、当世流行の不格好な四角いハンドバッグを肩からつるしていた。口紅もつけてないし、首飾や指輪のような装飾具もつけていないうえに、縁なし眼鏡が図書館の女子事務員のような印象を与えた。(清水訳『かわいい女』)

 小柄で身ぎれいで、堅苦しい見かけの娘だ。艶やかに整えられた茶色の髪に、縁なし眼鏡、茶色の男物仕立ての服、肩には無愛想な角張ったショルダーバッグをさげている。修道女が応急薬品を詰めて怪我人のもとに走っていきそうな鞄だ。滑らかな茶色の髪の上には、まだ育ちきらぬうちに親元から引き離されたような帽子がちょこんと載っていた。メーキャップもなし、口紅もなし、装身具もなし。縁なし眼鏡は彼女を図書館員のように見せていた。(村上訳『リトル・シスター』)

 まあ、違うっちゃ違いますが、『ロング・グッドバイ』『さよなら、愛しい人』ほどの違和感は感じません。訳者あとがきでも書いていますが、チャンドラー本人にとっても、満足できるような作品ではなかったようですが、『ロング・グッドバイ』のような、不意の完成といいますか、プログラムピクチャーの中に出来てしまった世紀の大傑作のような佇まいとは違う、まだ、才気はあふれているけどヤサぐれている感じも残っている良さがあるような文章です。

 ただ、細かく見ていくと、訳の精度はやっぱ違います。この文章のちょうど前のセンテンスなんですが、And nobody ever looked less like lady Macbeth.は清水訳『かわいい女』では《私はマクベス夫人が姿をあらわしたような気がした》となっていますが、村上訳では《これくらいマクベス夫人からほど遠い外見の女はまたといるまい》『リトル・シスター』となっています。恐ろしいのは、まあ、名調子の清水訳だと、なんとなく意味が通ってしまうことなんだな、と感じました。

 あとはお楽しみください。

 ぼくは、作品の中で重要な役割を果たすライカが何型なのかな、というのが改めて気にかかりました。

 室内の人物をフラッシュなしで撮れるライカといえば、スローシャッターの付いたIIIc(Leica IIIc 、1940年発売)でしょうかね。で、レンズはSummar 2.0/5cm(1937)あたりかな、とか想像を膨らませます。
 
 ぼくが持っている創元推理文庫の『かわいい女』のジャケットは、ジェームズ・ガーナーがフィリップ・マーロウに扮した1969年製作の『かわいい女(Marlowe)』です。

 なんで、こんな感じになっちゃうの、という感じのマーロウですが、この映画にはブルース・リーが原作にはない殺し屋役で出演していたことでも有名で、カンフーアクションで頭上の電灯を割るシーンなんかもありますね。

 ま、原作も映画も、いろんな要素がごちゃまぜになった、不思議な味わいの作品です。

 これからも、マーロウものを翻訳してくれるというので、楽しみですが、個人的には『プレイバック』をぜひ、お願いしたいかな、と思います。

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