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October 31, 2010

『熱学思想の史的展開 熱とエントロピー1』

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『熱学思想の史的展開 熱とエントロピー1』山本義隆、ちくま学芸文庫

 山本義隆さんといえば、ぼくの年代からすると東大全共闘、全国全共闘のヒゲの議長というヒーロー的なイメージがまず最初に浮かびます。恥ずかしながら駿台に通っている時も、文系にもかかわらず、物理の授業を「見に」行ったぐらいなのですが、03年に『磁力と重力の発見』で科学史家としてデビューしたときには、鮮やかな印象を受けました。

 その後に出された『一六世紀文化革命 1』も読みましたし、『一六世紀文化革命 2』は興奮しながら読み終えました。

 この『熱学思想の史的展開』はその2作の前に書かれていまして、この文庫版はそれを大幅に加筆・訂正したもの。

 アリストテレスの「質の自然学」を克服し、「自然を計算し、秤量し、測定する(to number, weigh and measure)」して定量化していく中で(p.129)、最も身近な自然現象である燃焼の原理や熱とは何かを探る人類の歩みを悠揚迫らず描いていて、まだ途中ですが感動しっぱなしです。

 《アリストテレスの質の自然学は、物質の種々の性質にたいして、その質の担い手としての実体を考えてゆくもので、その実体を所有していることが性質の原因》でした。そして《そのような実体が単離されていなくても、それは「隠された性質」》が含まれていると説明されてていたのですが、それでは何も説明されたことにはなりません(p.164)。

 ガリレオ(1564-1642)の温度計は《熱現象の定量化の発端》でしたが、そこから150年後に質量保存の法則を発見したラヴォアジェ(1743-1994)でさえ、燃焼とは物質と空気のひとつの要素である純粋空気が結合したものと主張して、焼素(フロギストン、Phlogoston)が空気中に出ていくという焼素説を追放したにもかかわらず熱素(calorique)を提唱していました。化学に革命をもらしたラヴォアジェでさえ…ということは、どれだけ、燃焼と熱の原理を探る人類の旅が困難を極めたものか、ということを教えてくれます。

 しかも、400頁弱の文庫本1冊でまだ1/3。これから熱力学の第1法則と第2法則を確立する物語まで、なんと前途遼遠なことか。

 この本に戻りますが、ニュートンの原子論では、粒子間の隙間が積極的な役割を果たしており、それがエーテルでなんでも説明しようとする方向に出た、というあたりは、なるほどな、と教えてもらいました(p.178)。また、ニュートンはエーテルを不活発なものとは考えておらずに、動的なものと考えていたそうです。山本さんは触れていませんが、これはやはり聖書の「聖霊概念」をもってきたんじゃないかな、と思ったりして(p.188)。また、ニュートンが「万物の生存に必須の精気は、主に彗星からくるのでないか」と書いているのには驚きました(p.192。ニュートン『光学』の疑問30)。

 「再刊にあたって」で社会的な背景の記述を補った、と書いていますが、《オランダとイギリスは、三次にわたる英蘭戦争にもかかわらず、反カトリック・反フランスという一点で、政治的に密接な関係を保ってきた》(p.206)というあたりから、ニュートンに影響を受けたライデン大学のブールハーヴェの業績を語るところなんかが、そうなんでしょうか(元の単行本を読んでいないのでわからないのですが)。

 このブールハーヴェから第2部が始まるのですが、18世紀中期以降、イギリス科学の重心はイングランドからスコットランドに移った、というあたりもなるほどな、と(p.237)。産業革命はスコットランド人が担ったというあたりは、天川潤次郎さんの本あたりをいつか読んでみたいと思いました。

 あと、ラヴォアジェが空気は単体(etre simple)ではなく、<火の物質>と結合した特殊な流体である、という見解は、《アリストテレス以来-もっとさかのぼればアナクシメネスやエンペドクレス以来-連綿と続いてきた「元素」としての<空気>という理解を放棄するもの》だったというあたりも感動しました(p.349)。

 ちょっと文系のぼくには難しすぎるし、岩波のシリーズ中国近現代史3『革命とナショナリズム』とか、シリーズ日本の古代史1『農耕社会の成立』とか、小説フランス革命4とか読む物がたまってきたので、年末あたりにじっくり2巻以降は読んでみたいと思います。

 まったく、関係ない話ですし、ご本人はイヤがるでしょうが、せっかく民主党が政権をとっているし、官房長官も仙谷さんなんで、同じ東大全共闘の山本義隆さんを理系教育担当の内閣府参与ぐらいにしたらどうかと思ったりして。湯浅誠さんだって内閣府参与ですしねぇ。

 そういえば、この本のカバー挿絵・デザインは奥様の山本美智代さんなんですね。

[目次]
第1部 物質理論と力学的還元主義
機械論的自然観と熱―ガリレオをめぐって
「粒子哲学」と熱運動論の提唱―ボイルをめぐって
「ボイルの法則」をめぐって―ボイル、フック、ニュートン
引力、斥力パラダイムの形成―ニュートンとヘールズ ほか

第2部 熱素説の形成
不可秤流体と保存則―ブールハーヴェとフランクリン
スコットランド学派の形成―マクローリン、ヒューム、カレン
熱容量と熱量概念の成立―カレンとブラック・その1
潜熱概念と熱量保存則―カレンとブラック・その2 ほか

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