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October 02, 2010

『インフレーション宇宙論』

Inflation_sato

『インフレーション宇宙論』佐藤勝彦、ブルーバックス

 佐藤先生は岩波新書の『宇宙論入門―誕生から未来へ』も素晴らしいと思ったけど、ご自身の業績であるアンフレーション理論を解説してくれる本書は、さすがに自分の理論なので、さらに思い切って「大づかみ」に「かみくだいて」くれているところがありがたい。

 そして、研究史もなぞってくれるから、どうして研究者たちが、そんな問題意識を持ったのか、ということも、フツーの人間にも分からせてくれます。

 初期のビッグバン理論では解明できなかった星や銀河が形成される「密度のゆらぎ」が小さすぎるとか、宇宙の果てと果ての領域が同じような構造を持っている「一様性問題」があるのはなぜか、というのがアンフレーション理論で説明がつく、というあたりはさすがに本家だけあって本当に分かりやすい(p47)。

 さらに真空というのは粒子と反粒子がペアで馬手は合体して消滅する対生成・対消滅を繰り返しているとか、南部先生が着目した水が氷に変化するような相転移で対称性の乱れとともに潜熱が発生して、宇宙のエネルギーが急激に上昇した、なんていう感じで説明されると、まったくの門外漢にも「なんとなくわかるかも」と思わせてくれます。

 さらに、その過程で発生するはずのモノポール(磁気単極子)が、インフレーション理論によって1000億光年のかなたに押しやられてしまったと考えれば(宇宙の年齢137億光年よりもはるかに遠くに)、われわれの周りにモノポールがないのも説明がつく、というあたりも、ただただすごいな、と(p.65)。

 恥ずかしながら強い力が原爆や水爆のエネルギーを出す力、というのも「あ、そうなんですか」と思いました(p.51)。

 「一様性問題」からは本書のもうひとつのテーマともいうべき「曲率」の問題が出てきます。4つの力のうち《電磁気力を少しでも変えると生命は生まれなくなってしまいます。強い力の値をちょっと弱くすると、星の中で元素を合成するトリブルアルファ反応というものが起こらなくなります。これは3個のヘリウム4の原子核が結合して炭素12ができる核融合反応ですが、この反応が起きないと、炭素や酸素といった生命に不可欠な元素が生成されなくる》(p.170)っていうんですね(ジョークにせよ、ペンローズによると今の宇宙がつくられる確率は10の10の123乗分の1とか)。

 こんなあたりから、《神様はきわめて慎重に、曲率がゼロになるように宇宙を創造した》という考え方も出てくるんですが(なんでもホーキング博士も弱いながらもこうした人間性原理を支持しているとか)、佐藤先生はインフレーション理論が予言する宇宙が子宇宙、孫宇宙と無数に生まれるマルチバースならば、たったひとつの宇宙が人間の生まれるのにちょうどよくデザインされたとも考えられるのではないかとしています(p.178)。

 いやー、しかし、マルチバースっていうのは、最初は冗談かと思ったんですが、さらに議論が進んでいるんでしょうか。

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