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September 19, 2010

『十字軍物語Ⅰ』

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『十字軍物語Ⅰ』塩野七生、新潮社

 序曲ともいうべき『絵で見る十字軍物語』に続き、いよいよ本編第一作といいますか、全4巻の第2巻が出ました。

 いやー、今回も面白い。まあ、大人の漫画といいますか、冒険小説といいますか。

 洋モノの十字軍に関する本を読んだらいいじゃない、と言われる方も多いかもしれませんが、そうした本には、ぼくたち極東に住む人間が欠落している西欧の常識みたいなものに気をかけてくれません。

 その点、塩野さんの本には、そうした情報を補ってくれる丁寧さと心配りがあります。

 この本だったら、例えば、第一次十字軍で手勢の小兵を率いて大活躍したタンクレディ(Tancred)。

 山川の『世界史人名辞典』なんかにも載ってませんし、なんとなく聞いたことある方は、例えばロッシーニがその才能を開花させたオペラで知っているとか、割と十字軍が好きとか、けっこう限られているんじゃないでしょうか。

 でも、塩野さんに、こう書かれるとハッとする方多いんじゃないでしょうか。


 歴史上のタンクレディは、若さの象徴と見なされてきた。十六世紀イタリアの文人であるタッソの長編詩、『解放されたイェルサレム』でのタンクレディは、青春そのものとして描かれている。また、十九世紀には、ロッシーニがオペラ『タンクレディ』を作曲し、若いがゆえの悲劇として描き出した。
 そして、二十世紀。ヴィスコンティが監督した映画『山猫』である。あの映画でアラン・ドロンが扮した若さあふれる老公爵の甥を、この映画の原作を書いたシチリアの作家ランペドゥーザは、タンクレディと名づけたのであった。
 今なおヨーロッパ人は、それもとくに南欧の人々は、タンクレディという名を耳にするだけで、ほとんど自動的に、信義に厚くそれでいて若々しい、永遠の青年を想い起こすのである。


 なるほどねぇ。

 ということで、山猫が甥っ子の名前を呼ぶシーンは以下。

 あと、なるほどなぁ、と思ったのは、第一次十字軍というのは、この後に続いたフランスやイングランドの有名な王たちとは違い、日本で言えば、部屋住みの次男三男たちが、領主たちの代理のような形で遠路はるばるドイツやフランスあたりからボスフォラス海峡を渡り、いまのトルコ、シリア、レバノンをほとんどロジスティクスの支援を受けることなく闘いながら進み(逆にビザンチン皇帝からは嫌がらせを受けながら)、イスラム側の油断とマインドコントロールされた虚仮の一念のようなパワーでエルサレムを墜としてしまったという、ちょっとした奇跡のような企てだったんだな、と。

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 そして、カノッサの屈辱から立ち直ったハインリッヒはグレゴリウス七世を逆に追い詰めて対立教皇まで擁立したのですが、グレゴリウス七世を継いだウルバン二世がローマ教皇座のあるローマに入ることすら出来ずにいた時期に、乾坤一擲の打開策として呼びかけたのが十字軍だ、という説明も、だいぶ忘れている世界史の流れを整理してくれたかな、みたいな。

 そして、聖フランチェスコが現われなければ救われないほどに権威主義に凝り固まるというか、ローマ教皇の権力が最も高まるのは、塩野さんが書かれているように、日本の世界史ではインノケンティウス三世の時代だと教わりますが、その基礎をつくったのはウルバン二世なんだな、と。

 次は、まさかの勢いで出来てしまった十字軍王国ですが、すぐさま訪れる崩壊の危機にスターな王様たちが自分たちもヒーローになろうと我れ先に参戦し、それに対抗して、いよいよイスラム側もサラディン投入、という盛り上がる展開になります。

 いやー、早く読みたい。

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