『日本の聖域(サンクチュアリ)』
『日本の聖域(サンクチュアリ)』選択編集部編、新潮社
三万人のための情報誌「選択」に連載されている「日本のサンクチュアリ」のうち26本が新潮社から書籍化されました。
目次は最後に掲げますが、全部、面白いですよ。
いろんな知らないことが一杯。以下、箇条書きにしてみます。
* 警察や検察が逮捕権を行使するときに裁判所の令状が必要なのに、入管は地方入管局長と次長が収容令書を発付できる
* 1998年3月、21行に計1兆8000億円の公的資金を投入し、そのうち長銀と日債銀の分を紙クズにした金融危機管理審査委員会の委員長をつとめた佐々波楊子慶大教授は金融については素人同然だった
* 生保会社がお手盛りの関係者だけの総代会を最高意志決定機関としていけるのは、相互会社という形式をとっているからだが、それは公職追放となった旧日本生命の社長が弟・弘世現(ひろせげん)を世襲の社長に据えたかったから
* 人工透析は国が膨大な医療費を負担しているために、病院経営にとっては生命線になっており、透析液メーカーとつるんだ医師たちは腎臓病患者を治そうとしない(本来は二つもっているから十分、治療可能なのに)
*原子力安全・保安院は検査能力はなく、電力会社の不正は見抜けない
*世界で流通する薬の三割が使えないのは、厚労省のドラッグラグ(薬の開発から承認までの時間)が1416日と4ケタと長いため(最短はアメリカの504日)
*創価学会が経済界から集金力の凄さを注目されたのは、1965年に日蓮正宗本山・大石寺正本堂建立の資金355億円を4日間で集めたから
*09年10月末で農林中金の貯金は84兆5692億円で、これは707兆円を誇る日本の預貯金残高のうち、ゆうちょ銀行に次ぐもので、三菱UFJを上回っているが、減反政策などによって農業に貸し付ける対象がほとんどない
*東京・青山の国連大学に学生はおらず、外務省が国連への送金によって為替差益を得る道具と化している。また、銀行に手数料として30倍も払っている(2億ドルを送金すると6000万円の手数料)
*独立行政法人は政府が潰しても、どこかと合併して生き残るゾンビ集団であり、その典型が「私の仕事館」で有名な雇用促進事業団。そして霞ヶ関埋蔵金をため込んでいる
*世田谷区にある都立松沢病院の敷地は6万坪(地価は坪200万円)
*刑事裁判の有罪率は99.9%だが、残り0.1%の無罪判決も検察側に配慮した東京高裁が逆転有罪としてしまうケースが多い。公判請求率が4%から7%に上がっている現在、裁判所の検察チェック機能は摩滅している(東京高等裁判所 検察べったりの「官僚司法の砦)
*政府のエコカー減税がなければトヨタの経営基盤は揺らぎ、中堅メーカーの連続倒産が起きても不思議ではなかった(日本銀行 問われる「経営の健全性」)
*白内障の手術の診療報酬は12万円なのに、心肺停止の際の心臓マッサージはたった1時間2900円(厚労省「医系技官」 医療荒廃の罪深き元凶)
*国立がんセンターを支えているのは最新医療を学びたいという「レジデント」と呼ばれる下積みの医師たちだが、契約上は週30時間で20万円という日雇い労働者。これは厚労省の天下り医系技官の巣窟となっているため
「事業仕分け」について二番煎じだという安直な批判もありますが、こうしたムダをなくしていくためには、毎年やらないとゾンビたちを潰せないな、と思いました(国営「穀潰し」独立行政法人 これぞ「改革偽装」の典型)。
また、法務省というのは特殊な官庁で、事務次官は検事総長、最高検次長、東京高検検事長に次ぐ第四の男でしかなく、形式的には七つの高検検事長よりも低いので序列は11番目というのも恥ずかしながら知りませんでした(入国管理局 知られざる光と影)。改めて小沢幹事長vs検察というのが最高権力のしのぎあいなんだなぁ、と。
とにかくお勧めです。ぜひ!
[目次]
【第一部】 欲望が生み出す闇
* 入国管理局 知られざる光と影
* 諮問機関委員 「肩書コレクター」の玩具
* 生保「総代会」 こんな「お手盛り」がなぜ許されているのか
* 「人口透析ビジネス」の内幕 患者は病院で作られている
* パチンコ業界 警察利権としての三十兆円産業
* 原子力安全・保安院 経産省はなぜ分離独立を認めないのか
* 厚労省の犯罪「ドラッグラグ」 助かる病人を殺している
* 創価学会エリート官僚 「池田御輿」をかつぐ高学歴集団
* 児童相談所 「父親による虐待」が問題化しないのはなぜか
【第二部】 とがめる者なき無為無策
* 日本最大の機関投資家「農林中金」 サブプライム汚染どこまで
* 学生のいない学校「国連大学」 外務省の裏金作りの道具に
* 国営「穀潰し」独立行政法人 これぞ「改革偽装」の典型
* 都立松沢病院 荒廃する「精神科の総本山」
* 東京高等裁判所 検察べったりの「官僚司法の砦」
* 国立大学「法人化」の内幕 「東大+α」以外はなくてもよい
* 二千七百万匹「ペット市場」の実態 毎年三十万匹が「処分」されている
* 日本銀行 問われる「経営の健全性」
* 無きに等しい「検屍制度」 見逃される殺人事件
【第三部】 国民への背信行為は続く
* 厚労省「医系技官」 医療荒廃の罪深き元凶
* 瀕死の「国立がんセンター」 厚労官僚が「倒産の危機」に追い込む
* 食品安全委員会 役立たず「農水省の植民地」
* 日本相撲協会 何から何までカネカネカネ
* 企業監査役 海外投資家から不信の目
* NHK 指導者不在のメディア帝国
* 交通安全協会 「警察一家」極めつけの利権
* 精神鑑定の世界 これでも日本は法治国家か
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く 「作戦術」思考』小川清史(2023.05.23)
- 『初歩からのシャーロック・ホームズ』(2023.05.23)
- 『新しい地政学』北岡伸一、細谷雄一ほか(2023.05.22)
- 『政治家の酒癖 世界を動かしてきた酒飲みたち』(2023.05.22)
- 『言語ゲームの練習問題』(2023.03.13)
Comments