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April 16, 2010

『新・現代歴史学の名著 普遍から多様へ』

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『新・現代歴史学の名著 普遍から多様へ』樺山紘一(編)、中公新書

 1989年という決定的な年に出た『現代歴史学の名著』の続編。同じ樺山紘一(編)なんですが、新旧で取り上げられている本を比較すると感慨深いものがあります*1。
 
 旧『現代歴史学の名著』は、やはりどこかで冷戦を引きずっているというか、ヨーロッパ中心のイデオロギッシュな雰囲気を漂わせる本が多いのに対し、『新・現代歴史学の名著』は対象がグローバルになると同時に、見る目がフラットになっている感じがします。あるいは樺山さんが「はじめに」で書いているように《人類社会の到達目標は、もはや近代化ではなくなり、そのほかの形象に代置されつつある》ということを表しているのかもしれません。
 
 いまから20年後には、中国やインド、アラブ、アフリカの歴史なども整理されるでしょうし、そうなった場合、もっと人類社会を透徹した目で見ることができるような気がして、楽しみで仕方ありません。その場合、従来、主張されていた「欧米以外では唯一テイクオフに成功した日本」という見方もできなくなっているでしょうから、それこそ全く新しい歴史観があらわれるかもしれませんし、もっと長期のモノの見方が必要になってくるかもしれません(いずれ四大文明以降、唯一、インドと中国が経済的優位性を失っていたのは近代であり、それは特殊な時期だったという評価も出てくるかもしれません)。そうなると、日本のアイデンティティもここ150年ぐらいの「西洋文明に侵略を唯一受けず、経済発展して近代化をなしとげた」というあたりから、別な鉱脈を見つけ出す必要が出てくるかもしれません(明治維新のヒーローたちも別な見方をされるようになったりして)。
 
 ということですが、新旧を並べてみると、あらためてアナール派といいますか、フランス史学が大きな地位を占めるようになってきたんだな、と思います。考えてみれば、藤原書店の『地中海』の一巻目が出たのは1991年ですもんね。『新・現代歴史学の名著』でも、ル・ロワ・ラデュリの『モンタイユー』を紹介している渡邊昌美さんが書いているのですが、戦後においても日本の《大学や図書館にフランス中世史の基本図書がほとんど蓄積されて》おらず《戦後、この分野への挑戦者が直面したのは、まず図書探しであった》(p.68)という状態だったそうですから。
 
 しかし、こうした本はありがたいです。一気に情報を得ることができるし、読みたい本も出てくる。いまさら自分の無知、不勉強ぶりには驚きませんが、20冊のうち4冊しか読んでいないというのは、まあ、ちょっとお恥ずかしい限り。ということで、エイザ・ブリッグス『イングランド社会史』、ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体』、パトリック・オブライエン『帝国主義と工業化 1415〜1974 イギリスとヨーロッパからの視点』、ロイ・アレクサンドロヴィチ・メドヴェージェフ『1917年のロシア革命』の四冊はさっそく注文しました。
 
 にしても、不覚だったのはアンダーソン『定本 想像の共同体』を読もうともしなかったということですかね。
 
 吉本隆明さんの『共同幻想論』のソフト版じゃないかと思って読みもしなかったんですけど、白石隆さんの紹介がいいからでしょうか、素早く読もうと思いました。白石さんによると、ナショナリズムが生まれたのは、宗教共同体と王朝という古くからの想像の共同体とそれを支えた基本的観念が人間の精神を支配することがでなくなったことから発している、と。そして人間の宿命的な言語的多様性に資本主義と印刷技術が収斂することによって、新しい想像の共同体の可能性が生まれた、と。
 
 そして南北アメリカで国民国家が最初に成立した背景にあるのは、植民地で生まれた貴族の「相続の旅」が決定的な意味を持っていた、みたいなところもいいな、と。封建時代、貴族の相続人たちは、父親が死ぬと叙任のために先祖伝来の領地への「行って戻る相続の旅」を行ったそうです。しかし、スペイン領アメリカに生まれたクレオールの場合などは、そうした旅は南北アメリカ内に限られていた、と。そこで、大西洋のこちら側が生まれ育ったという共通の運命を悟るようになり、政治的帰結として独立共和国が成立した、と。
 
 そして、東欧やアジアのナショナリズムでは、宗主国で教育を受けられるような植民地の二重言語のインテリゲンチャたちが、「行って(宗主国での教育)戻る(植民地で付託される行政)巡礼の旅」を行ってナショナリストの最初の代弁者となる、というあたりも、なるほどな、と。
 
 また、国家は機構でそれ自体としては意味をもたず、国民が存在論的意味を与える、というのも個人的には当たり前の感覚なのですが、フツーにいいなぁと思います。

 国民とは「想像の共同体」として人びとの心の中にある文化的構築物であるのに対し、国家は教会、会社、大学のようにスタッフを持ちそういう人たちは入って出ていくなんてあたりは、サッカーのサポーター論にも通じるんじゃないかと感じました。『狂熱のシーズン ヴェローナFCを追いかけて』で語られていた、監督や選手たちは入って出ていくが、クラブを象徴する「色」とサポーターは永遠だ、という主張と見事に合致します。まだまだ「人びとの心の中にある文化的構築物」とまでいっているところはJの場合少ないかもしれませんが、個人的にもそうした方向を目指しているんじゃないかと思う人たちは思い浮かびます。
 
 ナショナリズムは未来に向けたプロジェクトとして意味を持つ、なんてあたりもいいな、と思いましたので、今更ながら最初に注文しました。

*1
『現代歴史学の名著』で取りあげられている22冊
津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』
ホイジンガ『中世の秋』
パウア『中世に生きる人々』
ヒンツェ『身分制議会の起源と発展』
チャイルド『文明の起源』
ピレンヌ『ヨーロッパ世界の誕生』
ブロック『封建社会』
ルフェーヴル『1789年 フランス革命序論』
ブルンナー『ラントとヘルシャフト』
大塚久雄『近代欧州経済史序説』
高橋幸八郎『市民革命の構造』
石母田正『中世的世界の形成』
コリングウッド『歴史の観念』
ブローデル『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』
カー『ボリシェヴィキ革命』『一国社会主義』
エリクソン『青年ルター』
ホブズボーム『反抗の原初形態』
テイラー『第二次世界大戦の起源』
フーコー『言葉と物』
ヴェントゥーリ『啓豪のユートピアと改革』
ウィリアムズ『コロンブスからカストロまで』

『新・現代歴史学の名著』で取りあげられている20冊
ジョゼフ・ニーダム『中国の科学と文明』
梅棹忠夫『文明の生態史観』
ピーター・ゲイ『ワイマール文化』
イマニュエル・ウォーラーステイン『近代世界システム』
エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ『モンタイユー』
カルロ・ギンズブルグ『チーズとうじ虫』
ジャック・ル・ゴフ『もうひとつの中世のために 西洋における時間、労働、そして文化』
エドワード・サイード『オリエンタリズム』
網野善彦『無縁・公界・楽』、『日本中世の非農業民と天皇』
ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体』
エイザ・ブリッグス『イングランド社会史』
ピエール・ノラ『記憶の場』
エヴァ・クールズ『ファロスの王国—古代ギリシアの性の政治学—』
パトリック・オブライエン『帝国主義と工業化 1415〜1974 イギリスとヨーロッパからの視点』
ユルゲン・コッカ『歴史と啓蒙』
ロイ・アレクサンドロヴィチ・メドヴェージェフ『1917年のロシア革命』
ジョン・W・ダワー『敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人』
速水融『近代移行期の人口と歴史』、『近代移行期の家族と歴史』

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