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April 05, 2010

『社会学入門 人間の社会の未来』

Social_mita

『社会学入門 人間の社会の未来』見田宗介、岩波新書

 一読、感動しました。

 自分の無知ぶりには今さら驚くことはありませんが、それでも、なんで見田さんの本をこれまでなんで読んでこなかったんでしょ…。まあ「思想の科学」系の方々は素通りすることが多かったので仕方ないかなぁ(あと、中沢新一さんの事件でちょっと個人的なイメージが悪かったのかな…)。

 とにかく『戦争が遺したもの 鶴見俊輔に戦後世代が聞く』鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二、新曜社で、甘粕石介の息子で"資本論もよくわかる小学生"と有名だったこともある見田宗介さんが、高校生ぐらいから疑問を持ち始めて、やがて思想の科学に接近して社会学の方向にいき、ここから吉見俊哉などの流れも出てくると紹介されているのに興味をかきたてられて読んで大正解でした(大澤真幸、宮台真司、小熊英二なども見田ゼミ出身とか)。

 かなり遠いところから社会学を語り始めるのですが、ぼくなりに目次の小見出しから一部を抜き出して追っていくと、全体の流れはこんな感でしょうか。

序「人間の学/関係の学」
1章「近代という狂気」
2章「魔のない世界」
3章「理想の時代―プレ高度成長期、夢の時代―高度成長期、虚構の時代―ポスト高度成長期」
4章「共同体からの解放」
5章「黙示録の転向。関係の絶対性の向こう側はあるか」
6章「現代人間の五層構造」
補「交響するコミューン・の・自由な連合」

 序では、人間というもの自体が関係なのであり、言語も関係の中でしか存立しえないということをまず明らかにするのですが、そこから、さらに広げて《石を投げれば当たるのは人間の「身体」の方で、この身体は、精神や意識とちがって「もの」として確かに存在しているもののように見えますが、ほんとうはこの「身体」自体が、多くの生命の共生のシステムなのです。これはほんとうに驚くべき、目を開かせるような事実なのですが、ながくなから省きます(真木悠介『自我の起源』という本をみてください。)》なんてあたりも名調子。さっそく真木悠介という別名で書いた『自我の起源 愛とエゴイズムの動物社会学』岩波現代文庫も購入しました。

 この本は教養課程の講義をまとめたものですが、《今日は1回だけ「雑談」をします》と始める1章がいいんですよ。インドやラテンアメリカのような世界では、時間は基本的に「生きる」ものであり、時間を「使う」とか「費やす」とか「無駄にする」とか、お金と同じ動詞を使って考えるという習慣は「近代」の精神である、というんです。こうした自明性から脱却することも「人間の学/関係の学」である社会学では重要だ、と。

 この章にはコラムがついているんですが、これが最高でした。インドのベンガル湾に望むコモリン岬での体験を書いているんです。見田さんが岩場を歩いていたら、船の中で寝ているような少年たちから金切り声が上がった、と。これは、岬の聖域には立ち寄るなという警告だと思ったというのですが、実は深い渕に間違って入り込まないように注意するためだった、ということがわかります。声をあげて注意してくれた少年たちは「よかった」と純粋に喜んでいたそうで、その素晴らしい瞳の写真は扉を飾っています。

 それから15年。04年12月に発生したスマトラ沖大地震で、南インドも大津波に見舞われ、この岬の沖合の岩場に数百人の旅行者たちが取り残されたそうです。空軍もなすすべがない状況の中、漁民たちが船で繰り出して500人以上の生命を救ったというレポートを見田さんは発見します。以下は引用させてください。

 一五年前のあの底抜けに屈折のない少年たちは、今立派な漁師たちになっている年頃である。写真のうちの幾人かは、この果敢な行動に加わっていることはまちがいないと、わたしは思う。「やったな、あつら!」わたしは自分の身内のことでもあるように誇りに思った。もちろんわたしにそんな権利など何ひとつないことは分かっているのに。それでもうれしくて仕方がなかった。大人になったら失われる、ということのない<きれいな魂>の生きつづける世界というものがある。この世界を行動によって再生産し、守り続ける人びとがある。

 一茶の「手向くるや むしりたがりし 赤き花」の解釈や、朝日歌壇に掲載された短歌から時代を読み解くなんてあたりも素晴らしいし(「それぞれにそれぞれの空があるごとく 紺の高みに しずまれる風」という渡辺松男さんの短歌には感動しました)ほかにも、全ての章に引用したいところが一杯ですが、それでは、この本を読む方々の楽しみを奪ってしまうことになるので、もうやめます。

 知り合いの子で、大学に入学したらお祝いに贈ってあげることにします。

 極上の読書体験でした。

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