『戦争が遺したもの』
『戦争が遺したもの 鶴見俊輔に戦後世代が聞く』鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二、新曜社
小熊さんの『1968』の流れで読むことに。というのもベ平連系の人って、ほとんど興味がなかったから、これまでマトモに本とか読んだことなかったんですよ。でも、まあ、なかなかやるな、というか、緩い集まりの大きな可能性を提示したんだなということで、少しはちゃんと読もうか、みたいな。
『1968』のベ平連で素晴らしいと感じたのは、脱走兵の手助けをしたあたりなんですが《ほんとうに出てくるとは思わなかった》(p.364)というのには笑いました。でも、呼びかけて出たからには、ちゃんと対応するというのは大人だな、と。
最初は生い立ちから。母方が後藤新平の娘なんですね。それで母親からの折檻に耐えかねてwハーバードに留学させてもらっているうちに日米開戦となって交換船に乗って帰国。すぐに徴兵されてジャワで海軍の武官府で働かされ、ジョージ・オーウェルなんかが番組をつくっていたBBCのインド放送を聴いて翻訳したり、慰安所の設営なんかを手伝わされたりします。慰安所は兵士、下士官、士官、将校の階級別に分かれていた他、ドイツ人向けのまであったそうです。ジャワはオランダの植民地だったので、ハーフキャストという白人と現地の人との混血もいて《そのなかにそうしたサーヴィスに応じる集団もいくらかあった》(p.59)、《ハーフキャストの人たちは、それまで純粋な白人から受けた差別を、支配者が交代した機会に取り戻そうとしたと思う》(p.61)、《日本軍による強姦から始まったというフィリピンなんかのケースとは、少し違いますね》(p.60)なんてあたりは聴いたことない話でした。
オーウェルの話につなげると『ナショナリズム覚書』で、ナショナリズムは他を潰していくけど、パトリオティズムは自分の住んだ村とか隣人に対する愛情だと区別しているというのは、よくある話だけど、まあ、そうなんでしょうね。でも、いまだこうしたことを理解できないから、反ユダヤ主義が残っていたり、日本でも高校の授業料無料化で朝鮮学校を外せなんていう心の狭いことを言う人たちがまだいるんでしょう。
甘粕石介の息子で「資本論もよくわかる小学生」と有名だったこともある見田宗介さんは、高校生ぐらいから疑問を持ち始めて、やがて「思想の科学」に接近し、流行歌や身の上相談の研究など社会学の方向にいき、そこからシリーズ日本近現代史9の『ポスト戦後社会』を書いたカルチャラル・スタディーズの吉見俊哉さんの流れも出る、なんて話も少し感動(p.218)。
《明治維新を、幕末の助走からずっと書いていって、今日まで環流するものまで書いたら、すごい本になると思うね》(p.257)と鶴見さんが語っていて、小熊さんもいずれ明治はやりたいと語っていることに期待します(p.257)。
《「嘘は嫌いだ」の純粋さで押していくと、保守に行ってしまうという必然性がないでもないと思うんですよ。なぜなら、左派は理念を掲げているけれど、やっぱり政治でもあるので、嘘というか、理念とのずれが目立つ。それにくらべて日本の保守は、理念はなくても本音丸出しの金儲け主義だから、とりあえずは嘘はなさそうにみえるという(笑)》という小熊さんの言い方もよかったな(p.324)。これなんか、民主党の政治とカネの問題ばっかり追及することから抜けられない大手マスコミの幼児性をよく表していると思いますよ。
あと、内ゲバに巻き込まれそうになって、誰かを傷つけなければならないような立場になったら逃げろ、というアドバイスも的確だと感じました(p.353)。
以下はアトランダムに。
占領政策もあって、アメリカは原爆の惨状については公表を許さず、広く知られるようになったのは1952年の『アサヒグラフ』の特集からだったとは思いつきませんでした(p.126)。
白樺派で戦争ばんざいって書かなかったのは柳宗悦と里見弴だけだったとか(p.92)、チョムスキーが明るい表情をつくりつづけられるのは兵隊に行ったことがないからとか(p.100)いうあたりも興味深かった。
なんとなく嫌な花なり夾竹桃(p.154)というのは誰の作品なのかな…。
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