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March 07, 2010

『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』

Yoron_kyokukai

『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』菅原琢、光文社新書

 2009年総選挙における民主党の圧勝の理由を探った、それだけのワンイシューの新書。結論を知りたければ7章だけを読めばいいと思います。だから、これも7章を中心に書いてみます。

 筆者は自民党の敗北を05年の郵政選挙の揺り戻しだとは考えていません。その根拠は民主党の農村部における得票率。03年と09年で比較すると14.0ポイントも上回っており、比例区の7.5ポイントよりも高くなっています。また、中間や都市でも比例区より選挙区が上回っています(p.249)。

 それは選挙協力で候補者を擁立しなかった社民党や国民新党の支持者の票が流れたのと、それまで共産党に入れていた票が流れたからだ、と著者は分析します。さらに、共産党が候補者を立てないという消極的な協力も大きかった、と。03年と09年を比較すると、自民党が減らした6.3ポイント分を大きく上回る10.5ポイントも民主党候補が伸びたのですが、この増えた分(約4ポンイト)は《共産党候補不在を受けて、2大政党の候補からよりマシな民主党候補を選択した結果であると考えてよいだろう》(p.260)。そして、共産党候補が撤退したことにより、民主党候補の有力感が高まるというバンドワゴン効果(勝ち馬に乗る人間が多くなる)が生まれた、と。

 自民党の一党優位体制が長く続いたのは、社会党が第2次産業から第3次産業へという急激な産業構造の変化についていくことができず、都市部で退潮。都市の貧困層、ホワイトカラー層、大企業の労働者などは公明党、共産党、民主党に流れたからですが(p.68)、こうした分散の結果、自民党候補の有力感は実力以上に高くなり、選挙で負けなかったんでしょうね。

 とにかく《選挙後の自民党は、民主党が手加減してくれたおかげで、農村部の長老政治家だらけになってしまっている。この陣容で小泉時代のように都市部の票を一挙に回復させることは、難しいだろう》として、結局、民主党の失政を待つしかないだろう、としています(p.267)。

 このほか、宇和島など県西部で強力な地盤を有していた愛媛で、南宇和高校のサッカー部出身者を社民党と協力して擁立して当選させたなど細かな芸も含めて、それまでの自民党議員のバンドワゴン効果を消し去るという戦略もあった分析していて、なかなか奥深いです(p.94)。

 著者のモチーフはもうひとつあって、それは小泉構造改革路線にノーが突きつけられたというのは神話だ、ということを証明すること。実際、農村部では自民党への離反はおきなかったということを徹底的に証明しようとしています。そして、あまくで「1人区における民主党を中心とする野党の選挙協力の成功」がカギを握っていたことを強調するのです(p.99)。

 この実感はぼくも共有します。「誰が首相にふさわしいか」アンケートにおける小泉元首相への根強い人気は、構造改革路線が負の遺産になっているなんていうもっともらしい分析が間違っていることを証明しています。

Yoron_kyokukai_graph

 著者の麻生元首相とフジサンケイグループの統計に対するコキおろしぶりも個人的には痛快だったのですが、安倍、福田が政権を投げ出して抜け出していった結果、トコロテンのように「次の首相候補」として「麻生」という名前が押し出されていったというあたりのグラフは分りやすいかったですね。

 にしても、よくこんなんで「麻生大人気」とか書いていたもんだな、と思います。いい加減だな、とw

 また、2ちゃんねるなどにみられる《ネット上で特定の政治信条に沿った主張をしたり、一日中至る所にコピペを貼り続けたり、特定のブログに抗議のコメントを書いたり、デモという名のオフ会に参加してりしているは、老若問わずごくごく一部の人々である。それは、政治的なビラや怪文書を投函して回ったり、自分の意見に沿わないテレビ番組に抗議の電話をしたり、黒塗りの街宣車の上で演説をしたりする人々が、老若問わずごく少数に過ぎないというのとまったく同じである》というあたりは、麻生人気など最初からなかったという著者の主張をもっとも端的に表しているところでしょうか(p.224)。

 だから著者は嫌韓・嫌中を含めた右傾化しているのがたとえ若者中心だと仮定しても、それは20代の0.3%程度ではないかと分析しています(p.207)。《0.3%の人々の言動や行動を見て、現代の日本人は○○である、若者は××化していると論議することは、それほど賢いこととは言えないだろう。彼らは若者どころか「右寄り」の人々の中でもだいぶ特殊な人々を代表していそうである》なんてあたりも個人的には痛快でした(p.208)。

 最後に閑話休題。

 著者は「はじめに」で《共産党のポスターが貼ってあるような田舎の飲食店の食事は必ず美味しい》という仮説をいつか検証したい、としています。自民党支持者が多い中で店を維持できるのは、ちゃんとしたものを出しているからだ、というのですが、これにはハッとしました。

 思い出したのは、讃岐うどんの「池上」の旧店舗。だいぶ前に《台風が来たら潰れそうな小屋である。念のために近づくと民主商工会に入りましょうというポスターと「イラク戦争反対」のポスター。そうか、東京のメディアにかなり露出はされていたけど、留美子おばあちゃんは民商の人だったのね。なんかいじらしい》と書いていたのですが、あのおばあちゃんも共産党のシンパだったんでしょうね(新店舗は行ってないのでわかりません…)。

 それ以来、民商に対する見方もかわりました。

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