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February 24, 2010

『はだかの起原 不適者は生きのびる』

Shima_taizo_hadaka

『はだかの起原 不適者は生きのびる』島泰三、木楽舎

 『孫の力 誰もしたことのない観察の記録』から『安田講堂 1968‐1969』を読んで、さらにもう一冊、島泰三さんの本を読んでみました。この『はだかの起原 不適者は生きのびる』も最初に島さんを知ったサル学といいますか、人類の起源を探る『親指はなぜ太いのか』の延長線上にある本として、興味深く読みました。

 『親指はなぜ太いのか』では直立二足歩行は骨を砕くために石器を振り上げる動作が促したものだと書いています。それは大型肉食獣が食い散らかした草食動物の骨から、滋養のある骨髄を取りだすために砕いたわけですが、もうひとつ、類人猿から人間を隔絶させている「毛のないサル」状態といいますか、被毛を失っているのはなぜか、という疑問に答えたのが本書です。

 『親指はなぜ太いのか』を補強する論議としては、初期人類は骨を主食としてきたので、脂肪を多くとることができため、ほとんどがリン脂質でできている脳を大きくさせたというのが面白かったですかね(p.155。

 前半のダーウィンによる自然淘汰説を延々と批判する部分は、やや退屈でしたが、著者としてはやっぱりやっておきたかったことなんだろうな、と思います。

 そして、次に批判されるのが海中起源説。クジラやイルカなど水生の哺乳類に毛がないように、初期人類も水辺で生活していたため体毛を失ったんだという説ですが、これに対してはアザラシやカワウソやカピパラは毛があるぞ、と反論。さらに水分と塩分を浪費する人間の発汗システムは水中だから形成されたなどという論議をいちいち論破した上で、海水に長く浸かると人間の皮膚は脂を取り去られて潰瘍を起こすし、低体温障害を防ぐほどの脂肪の厚さもなく(赤道直下の海水温も体温よりだいぶ低い29度しかありません)、微量であっても海水を飲んで処理することができないのであれば、アクア説などは空想のたぐいだと反論します(インディアナポリス号の悲劇から解き明かすp.160-は秀逸)。

 では、どうして人類は被毛を失ったのでしょうか?

 島さんはヌード変異種という常染色体遺伝子による突然変異から話を始めます。もちろん自然界では毛がない個体は長く生きられず、子孫を残すチャンスはありませんが、ヌードマウスには胸腺を持たず免疫反応がないという特性を持つため、癌を移植する実験動物として重宝されるようになったといいます。

 そして、中小型の陸生哺乳類のうち毛がないのはイノシシ科から1種、デバネズミ科で1種、オヒキコウモリで1種、霊長類では人間だけであり、そうした裸の種は、裸であると同時に特別な袋を持っていたり、働き蜂のような社会構造を持っているそうです。つまり、遺伝子の突然変異は重複する、と。そして、劣勢の突然変異を相殺するような出来事が重なった時にだけ種として生存できるのではないか、という仮説を提唱します(p.175)。

 では、常に体を守る完璧な衣類ともいえる毛皮を失ったかわりに人間が得た「重複する偶然」はなんでしょうか?それは咽喉の拡大だといいます(p.245)。これによって口腔内が押し下げられ、言葉を自由に発することが可能になった、と。

 この突然変異は20~30年前に東アフリカの高地に現われたのではないかと島さんは推論します。低地だったらマラリア蚊によって裸の人類は生き延びられなかったろう、と。そして、7万年前に訪れた氷河期によって、ユーラシア大陸まで進出することができるようになった、と。

 なんと、衣類の発明もこの7万年という時期と合致するそうです。

 どうしてそんなことがわかったのか?それは、コロモジラミがアタマジラミから分かれた年代がDNAの研究によって約7万年と確定されたからです(p.195)。この7万年前という数字が確定されたのは2003年で、島さんにこの情報を知らせてくれたのは、坂本龍一さんだそうですが、うーん、教授、なかなかやりますね。

 そして家や衣類を造る能力、火によって温度を調節する能力をもった人類はネアンデルタール人が克服できなかった氷と雪に閉ざされた世界を生き残ることができた、というあたりは感動です(p.253)。

 しかし、生み出された精神生活は死後への恐怖を生み出し、それによる不安から人類は資源を浪費するようになったというんですから、まあ、いろいろありますわな。

 個人的にはハダカデバネズミの議論が凄いと思いました。ハダカデバネズミは子どもを生む女王と繁殖に参加するオス、生まれてくる赤ん坊を支える数十頭の労働者ネズミからなる「真社会性社会」をつくっているそうです。

 真社会性社会はeusocialの訳語ですが、接頭語のeuは「良い」とか「正しい」という意味のギリシア語の副詞ευから来ています。つまり、ヨーロッパ人にとって《カースト(階級)があり、生殖と労働の分業がある。階級社会こそ「真の」社会である、という認識が彼らにはあるらしい》というあたりには、サッカーとラグビーなどヨーロッパ発のスポーツを考える上からもハッとさせられました(p.112)。

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