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February 11, 2010

『孫の力 誰もしたことのない観察の記録』

Mago_no_chikara

『孫の力 誰もしたことのない観察の記録』島泰三、中公新書

 名著『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』の、島泰三博士によるご自身のお孫さんの“観察記録”。

 東大全共闘を経て日本野生生物センターを設立、野生のサルを観察する生活を続けた著者による、お孫さんの「心が花のように開く奇跡としか言いようのない事件がつづけざまに起こる時代」を記録した本であると同時に、蘇った自身の幼年期の記憶から祖母への感謝の気持も綴られています。

 サルとの的確な比較は、人間というのは、やっぱりサルから進化したものなんだな、と思うと同時に、祖父母と孫の親密な関係は人間独自のものである、ということも感じさせられます。

 サルとの関係で「すごいな」と思ったのは、例えば「霊長類における破壊衝動の根は深い」(p.28)といったあたり。そしてイヌは命令-服従型だが、サルは命令-欺瞞型でり、禁止によって人間の赤ん坊は育つことなく、禁止されると裏をかく方法を探す。だから「サルも人も命令では動かない。ただ賞賛によって動く」(p.30)と。

 この本は最初が圧倒的に素晴らいんですよね。このあたりだけでなく、赤ん坊が「あー」と言うと、母親も「あー」と無意識で答えるのは、ニホンザルの「鳴き交わし」と呼ばれている声のやりとりとそっくりとか(p.23)。

 『親指はなぜ太いのか』では、霊長類の「口と手連合説」を検証していく中で初期人類は「ボーン・ハンティング(骨猟)」をしていたのではないか、という仮説を提唱しています。初期の人類はサバンナなどで肉食獣によって放置された骨を集め、まだ着いている肉とともに、中の骨髄を主食にしていたのではないか、と。実際、初期人類の化石の周りには、草食動物の大型の骨が砕かれたものが散逸しているというんですね。そして骨を折って中の骨髄を摂取することを可能にしたのは初期人類による石器を使っての打撃であり、骨を砕くために石器を振り上げる動作が直立二足歩行を促したたのではないというあたりは、メチャクチャ感動したのですが、島さんはご自分の孫にもイワシの骨をカリカリに焼いて食べさせているのには思わず笑ってしまいました。

 赤ん坊があくびをするのは《脳がどんどん大きくなっているので、酸素をたくさん吸い込まなくてはならない》からとか(p.16)、《哺乳類にとっては、遊びは生きていることと同じ》(p.47)、《親の育児日記はこどもが三歳ごろには終わることが多い》(p.81)、複雑な遊びや役に立つことをしたいという気持は自分を越える行動をしたいということで《なんと!人は日々、自分を越えようとする動物なのだ》(p.86)とか、恐怖心の始まるのは一歳七ヶ月ころの「人見知り」あたりぐらいだが、その後、意識ができ、言葉を持つようになると《恐怖感情が結びつく》(p.109)なんてあたりも凄い。

また、湯川秀樹博士は早くから隠遁生活を送っていた祖父から中国古典の素読を習い、それが全ての基礎だったと『自己発見』の中でくりかえしている、というあたりも、なるほどなぁ、と。湯川博士は相対性理論を語る際にも荘子の「相待つ」を持ってくるそうですが、幼児教育というのは、人格の基礎が決まるほど、すごいものなんだなぁ、と(p.178-)。

 各章の扉の裏に引かれているヘルダーリンの詩もすべていいです。

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