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January 11, 2010

『ある映画の物語』

Histoire_dun_film

『ある映画の物語』フランソワ・トリュフォー(著)、山田宏一(訳)、草思社

 この単文は『アバター』という映画に、なんとなく苛ついていた一人の映画好きが、それを否定する根拠を求めて家の中から本を探して引っ張り出してきて、ようやく目的の箇所を見つけるのですが、かえってその本と作者の映画に対する愛情で救われるーという流れになります。

[アバター]

 周りの人たちが5~6人「良いよ」というので『アバター』を観ることにしました。最近、これだけ同じ映画を観てる友人が多いのも珍しいので、正月休みの一日を使うことに。しかし、ろくに調べもせずに行ったもんですから、2D版、3D版のふたつがあるのも知らず、2D版を観ることになります。

 噂だけを聞いていた分には、ハリウッドにとって、テクニカラー(三色法によるカラー映画という本来の意味のテクニカラー)ぐらいのブレークスルーだと思ったんですけど、どこら辺がそんなに凄いんだろうか、と思いながら観ていました。実写とCGの融合に驚いたというような書き込みもあるが、3Dだとボヤケて見えるから、差異が感じられなかったという感じではないんだろうか、みたいなことまで思ったりして。正直、ジュラシックパークのティラノザウルスやスターウォーズ・エピソード1のジャー・ジャー・ビンクスの時の方が驚いたし、インパクトは大きかったと思いました。

 ただ、吉本隆明さんが語っていた鎌倉以前の仏教の修行で死の世界のイメージを作り出す、みたいな執念は感じました。これはオウム批判というかオウムへの批判に対する批判、みたいな一連の文章の中でくり返し語られていたものですが、鎌倉以前の仏教というかヨーガは、修練によって精神を集中するとにより死の世界のイメージをつくることが目的なんだ、と。瞑想によって幻覚をつくり、色彩をつくり、光をつくり、行き着く先は死をつくりだす、と。そうなるのと、ちゃんとイメージができるんだから死後の世界も実在するわけだし、それならば生きている現実と同じなのだから、死は乗り越えられるみたいな。

 厳しい修行を行い、素晴らしい導き手に出会うことができれば、そうしたイメージをつくり出すことは可能なんでしょう。でも、浄土系の法然や親鸞のように「そんなことができても意味ないよ」とぼくも思います。現実の視覚から得られる情報量と比べても貧弱なものでしょうし。

 なんてことを考えながら、次に思い出したのが、トリュフォーが書いていた『雨に唄えば』のGood Morningのシーン。ジーン・ケリー、ドナルド・オコナーとデビー・レイノルズが妙案を考えついて、歌い踊ったラスト、バタンと椅子から落ちて、デビー・レイノルズのスカートの裾がちょっと乱れる。それをデビー・レイノルズが何気なく手で直す、というシーンがあります。

 こんなのは、モーションピクチャーだったら、CG処理する前に絶対カットされて、取り直しでしょう。でも、それは違うんじゃないかな、みたいな。すくなくともジャンプアップとはとても思えない。単なる延長感覚じゃないのーみたいなことが言えるんじゃないかって思い、さっそく、その本を探しはじめました。

[トリュフォーの二冊の本]

 家に本棚があるのは3つの部屋と廊下。映画関係は、最近、二軍というか、メインに使っている書斎みたいなところには置いてないので、別の部屋の本棚を探しまくって、ようやく3棚目に見つけました。

それが『ある映画の物語』フランソワ・トリュフォー(著)、山田宏一(訳)、草思社、1986と『アメリカの夜』フランソワ・トリュフォー(著)、山田宏一(訳)、草思社、1988。

 その二冊を持ち出して、ページを日がな一日めくっていたんですが、気に入ったセリフを思いだすことができたり、昔、読んだまま忘れていた箇所などにも巡り会うことができました。

 例えば映画『アメリカの夜』での主人公、フェラン監督のモローグ。

「映画の撮影というものは、いわば西部の駅馬車の旅に似ている。美しい夢にあふれた旅を期待して出発するが、すぐ期待は失せ、目的地に到着できるかどうかさえ心配になってくる」(『アメリカの夜』、p.51)

 それとともに、こんな言葉も思い出しました。
『華氏451』は撮影六週目に入ることになる。まだやっと半分近くを消化した程度だ。撮影が中盤にさしかかると、わたしはきまって、こんな自問自答をして、自分を責めさいなむーずいぶんいいかげんな仕事ぶりではないか。こんなことでいいのか。もっと身を入れてやるべきではないのか。前半はもう取り返しがつかない。これから、後半で盛り返すのだ。ずるずる落ち込んでいかずに、一気に調子を上げるのだ。映画を救うには、それしかないぞ。

 このふたつの言葉は、現代の仕事に向き合う、ぼくたちに静かな共感を呼び覚まします。60年代後半から70年代前半にかけて監督した映画に関する言葉でしたが、それらを観た当時の日本は、まだ、本当の先進国の仲間入りは果たしていないというか、脱工業化時代を迎えていなくて、働くというのは肉体をつかってモノをつくるとか、運ぶとか、手応えがあるものでした。そうした手応えのある仕事をしている分には、このような言葉は思いつきません。小熊英二さんの『1968』流に言うならば、脱工業化時代の手応えのない、終わりの見えないような毎日の仕事からくる現代的不幸に向き合って、なんとか対処しなければならない今だからこそ、静かに支えてくれるような言葉だな、と。

 実は、これで言いたいことの大半は書いたのですが、やっぱり『アバター』に関する違和感も書いておきたいので、最後はそれで締めくくります。

[デビー・レイノルズのGood Morning]

『ある映画の物語』でトリュフォーは『華氏451』の撮影を終え、編集作業にとりかかります。映画監督は編集機(ムビオラ)の中で、もう一度映画の撮影を体験することになるーというあたりに『雨に唄えば』のワンシーンの話が語られます。

 曰く「これまでわたしが見た三千本にあまる映画のなかで最も美しく感動的なカットーそれは『雨に唄えば』の中のワンカットだ」と。

 そのシーンは、三人が初めて関係したトーキーの試写会が大失敗に終わり、これからどうしようかと試案にくれる中で、素晴らしいアイデアを思いつき、映画を救うことになった夜、ジーン・ケリーとドナルド・オコナーとデビー・レイノルズが「夜中だと思ったけど、もう朝だ。なんて素晴らしい朝なの!」と歌って踊るところ。

 突然、演技していた俳優たちが歌って踊り出す。そのミュージカルの唐突さの中で、トリュフォーは素晴らしいワンカットを発見します。

 一瞬、デビー・レイノルズのかわいいピンク色のブリーツのスカートが膝の上でめくれ上がる。そのほんの一瞬、デビー・レイノルズの手が、すばやく、下着が見えないようにスカートの裾をしっかりひきおろすのである。それは目にもとまらぬ素早い手の動きだが、美しい。なぜなら、そこには、話をするかわりに唄を歌い、歩くかわりに踊るという、ミュージカル・コメディならではのきまりきった映画的なきわみとともに、ひとりの若い娘がはしたなく裸を見せてはならないという気遣いから見せた小さな動きが期せずして出ているという、真実のきわみが見られるからである。
 そういったすべてが、ほんの一瞬、十五年前にただ一度起こったというだけのことである。その小さなすばやい手の動きは一秒にも充たないだろう。だが、それは、リュミエールによってとらえられたシオタ駅の列車の到着と同じように決定的にフィルムに焼き付けられているのである。(p.195)

 ジェームス・キャメロンの『タイタニック』でも、個人的に一番、印象的なシーンは、老女になったローズが宝石を海に捨てるラストシーンです。多少の特殊効果は使っているかもしれませんが、基本はグロリア・スチュアートの演技力に頼るしかないシーン。宝石を投げすて、なんか、せいせいしたという表情は、それまでの全てのVFXに対抗できるものだったと思います。

 さて、『ある映画の物語』には原作者のブラッドベリが、当時の水準からしてもほとんど特殊撮影に頼らずにSFの世界を描いたトリフォーに対して賛辞を送った文章が書かれています。

 曰く多くの監督は映画ではすべてが可能になるという魔力に抗しきれずに、映像の誇張の魔力に引きずられる、と。しかし、トリュフォーはその危険性をよく知っていて、本を読む男と読まれる本の愛の物語をつくったのだ、と。

 それにしても、トリュフォーが『雨に唄えば』を好きなのは当然です。『雨に唄えば』は映画に関する映画なのですから。

 せっかくですから、Good Mornigにトリュフォーが見た、真実の世界をお楽しみください。

トリュフォーの引用で、デビー・レイノルズのスカートの色が間違っているのはご愛敬。当時は、ビデオもまだ普及していない状況だったんですから。

Good morning, Good morning! We've talked the whole night through, Good morning, Good morning to you.
Good morning, good morning! It's great to stay up late, Good morning, good morning to you.

When the band began to play, The sun was shining bright. Now the milkman's on his way, It's too late to say goodnight.

So, good morning, good morning! Sunbeams will soon smile through, Good morning, good morning, to you,And you, and you, and you!

Good morning, Good morning, We've gabbed the whole night through.Good morning, good morning to you.
Nothing could be grander than to be in Louisiana In the morning,

In the morning, It's great to stay up late! Good morning,Good morning to you. It might be just a zippy, If you was in Mississipi!

When we left the movie show, The future wasn't bright. But tame is gone, The show goes on, And I don't wanna say good night

So say, Good morning! Good morning! Rainbow is shining through Good morning!

Good morning!
Bon Jour!
Bon Jour!

Buenos Dias!
Buenos Dias!

Buon Giorno!
Buon Giorno!

Guten Morgen!
Guten Morgen!

Good morning to you.

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