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January 23, 2010

『民主党代議士の作られ方』

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『民主党代議士の作られ方』出井康博、新潮新書

 政治家に関する本というのは、出来上がった人物に関するものが多くて、逆に、どう出来上がっていくのか、という本はあまり多くないと思います。もちろん学術的な本はあるでしょうが、ここまでリアルに、選挙を戦って勝つためには、どんなことをやっていて、その物質的、精神的な支えは何なのか、ということを描いた本は、少なくともぼくは初めて読みました。

 大野伴睦さんの「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちればタダの人」はけだし名言だと思いますが、いくら高邁なことを考える気高い人格の持ち主でも、それだけでは何の役にも立ちません。選挙戦という唯物論的な現実を勝ち抜かなければ誰も政治家として認めてくれないわけです。では、二世でもなく、高級官僚でもなく、宗教団体のバックもなく、テレビで名前を売ることもできないようなフツーの人間に「政治家になれ」というcallingが下ったとしたら、どうしたらいいのか。

 田中角栄さんが政治家を志す人間に必ず説いたように「戸別訪問3万軒、辻説法5万回」をこなすとともに、カネをどうにかして集めなければなりません。

 この本は、08年8月総選挙で3回目の当選を果たした市村浩一郎さんと、初当選を果たした神山洋介さんという二人の(全国的にみれば)無名の代議士がいかに選挙を戦ったかという記録です。

[公認前に3000万円]

 興味深いのはなんといっても神山洋介さん。富士フイルムで執行役員までいった父親を持つとはいえ、それ以外はごくフツーの家庭に育ち、慶應義塾大学法学部を経て、99年に第一生命に入社したという経歴の持ち主ですが、なんと結婚後に政治家を志し、03年に松下政経塾第24期生として入塾して06年に卒業します。

 そして、当時は圧倒的な組織力を持っていた河野洋平前衆議院議長の神奈川17区から公認内定を取り付け(民主党候補はダブルスコアでの負けが続いていたから、誰も手をあげなかったというのが17区から出られた理由)、07年6月から選挙活動をスタートさせます。

 08年10月21日に民主党本部で当時の小沢一郎代表と面談の上、公認料として受けとったのは500万円。しかし、その500万円も月末までには使い切ります。というか、それまでに自己資金だけで3000万円近くを使った、といいます(p.48-)。

 神山さんは最初、小田原駅から歩いて10分ほどの場所に事務所を借りますが、ここの家賃は月8万円。

 しかし、選挙も近くなった08年秋に小田原駅から徒歩3分の場所に借りた事務所の家賃は月50万円、3台分の駐車場台は13万円にハネあがり、有給スタッフを6~7人雇うと月々の出費は固定費だけで200万円近くに膨らんだといいます(p.52-)。

 選挙も近いと言われた08年夏につくった30万枚のチラシの印刷費は90万円、さらに新聞折りこみ料が70万円。対抗馬の自民党女性候補がコミュニティペーパーに一面広告を打てば、対抗せざるを得ず、つつましやかに1/4サイズで打ったとしても1回あたり100万円。

 《「一億円でも、使おうと思えば簡単です」》(p.54)というのは実感なんでしょう。

 内定段階では月50万円の活動費は渡されていましたが公認料をもらってからは支給は止まります。なんか公認料というのは「後は勝手にやれ」という手切れ金みたいな意味合いもあるんじゃないかと思いますが、圧倒的に足りない資金はどうして工面したかというと《「すべて父親からの借金》(p.57)だといいます。確かに多少は恵まれた家庭かもしれませんが、息子が政治家を目指すと天啓を受けると、父親の蓄えから3000万円が消えるというのが現実なんだと思います。父親の《企業では人材を育成しますが、政党にはそれもありません》(p.61)という嘆きは真実のものでしょう。

 家賃9万円のアパートに子ども2人と住んでいる神山さんの奥さんも、当選してもらいたいけど、とにかく早く終わってほしいと願っていたと告白します。明日が見えないこの新人候補の妻は、ノイローゼ状態に陥ってしまったこともあるそうです。

[二連のポスターで100万円]

 選挙前のポスターはいわゆる「二連」のモノが原則です。小さい文字で演説会の告知が書かれていて、候補者と有名政治家が2ショットで笑っているヤツです。

 このポスターを2000枚つくると100万円。神山さんの場合、小沢党首が辞任してしまったのでつくりかえなければならなくなり、さらに100万円が吹っ飛びます。

 ノボリ一本で駅頭演説を繰り返すだけなら一人でもできますが、ポスター掲示を頼んで回ったり、後援会を組織する作業は、ボランティアだけではこなし切れません。駅頭演説の場合でも、連合の労働組合から動員をかけ、チラシを配るスタッフに加わってもらわなければ、枚数伸びません(p.172)。さらに、専属のスタッフを雇えば民主党から支給される資金だけではとても足りません。気のあった仲間だけでは国政選挙は戦えないのです。

 ここまで紹介してくると、ため息が出るように話というか、息がつまるような話ですが、でも、それをやりくりした上で、選挙となるとどこからともなくうごめいてくるような支援者たちとの複雑な人間関係もこなさなければなりません。さらに夏祭りに参加しては、女子高生などに「キモイ」と言われながらも踊ったりしないといけない。

 政治にはカネがかかる。いくら新人候補がつつましくやろうとしても、これぐらいかかる、ということが、これほど納得的に書かれている本というのはなかった、という意味でも、素晴らしいと思います。

 「政治とカネ」について、観念論的に批判するような方には、ぜひ読んでもらいたい本だと思います。

[目次]
第1章 リーマンショックで消えた政治献金
第2章 新人候補が犠牲にしたもの
第3章 スキャンダルに翻弄された地元市長選挙
第4章 秘書たちの役割
第5章 あいさつとカネと人間関係
第6章 当選!

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Comments

『選挙』というドキュメンタリがありますよ。http://www.amazon.co.jp/dp/B000WSQIEM
小泉政権絶頂期の川崎市議補選でもこんなにも大変なのかと。海外でも結構話題になっていて、面白かったという感想を聞きます。

Posted by: hisa | January 24, 2010 at 05:29 AM

『民主党代議士の作られ方』のすごい所は、国政しかも衆議院選挙の内幕と、当選するまでの具体的な活動、カネのかけ方が具体的に描かれているところかな、と!

Posted by: pata | January 24, 2010 at 10:42 AM

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