今年の一冊は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子
今年、こちらで紹介させいただいたのは約100冊、うち08/12-09/11という書評年度でいう新刊は45冊でした。書評で読んだのや、数学などの本で、読むには読んだけど、まとめられない、みたいなのを入れてもだいたい150冊弱。去年とほぼ同じペースですかね。
個人的に、今年得た最大の知見は、現代数学では1+1+1+1+1+.....=マイナス1/2[=ζ(0)]となること。
これを10倍してわかりやすくすると10+10+10+10+10....=マイナス5となるわけですが、数学者の方々などは《これは毎日10円ずつ無限銀行に貯金していくと、最後の審判の日には5円の負債となる、という宗教的・哲学的意味があるのだ、とゼータ研の修業時代に教わった》そうです(『リーマン予想は解決するのか? 絶対数学の戦略』黒川信重、小島寛之)。理系の方には常識なのかもしれませんが、なんという新約聖書的というかウィトゲンシュタイン的な結論!と感激しました。しかし、いろいろゼータ関数なども読んではいるんですが、ボンクラな文系アタマでは理解することがなかなかできず、本の感想すら、なかなか書けない、というのが現状です。
もうひとつは、これまた無知をさらけ出してしまうような話ではありますが、やっとウィトゲンシュタインが何を考えてきたのか、という全体像が分ったような気にさせられたこと。私たちが言語を話せるようになるのは、言葉を理解したからであって文法を教わったからではなく、数列の並びの意味を眺めているうちに理解するように、いくつか実例をやっているうちに「わかった!」となる、ということが「ゲームの理論」であり、この信頼を高めるためにウィトゲンシュタインは懐疑的な思考実験を行った、みたいな。大学時代から、意味もわからず、とりあえず読んできたことが、はじめて「わかった!」となりました。脳科学でも、人間というのは常に自分を他人の視点から見つめることで、モノマネをしながら経験を積んで生きていくみたいなようなので、なるほどな、と。
また、今年はレヴィ=ストロースが100歳でお亡くなりになった年でもありました。人生のモノサシが70~80歳から90~100という大きさに変ってきつつあると感じています。ぼくも薄ぼんやりながら、たぶん90歳以上は生きるんじゃないかと感じていまして、それならば、まだまだ出来ることもあるかもしれない、と思い始めているところです。
さて、08/12-09/11という書評年度の新刊で、冬休みにもお勧めできるのは以下の9冊です。
『1968』小熊英二、新曜社
『ザ・コールデスト・ウィンター 上・下』ディヴィッド・ハルバースタム(著)、山田耕介(訳)、文藝春秋
『パロール・ドネ』クロード・レヴィ=ストロース、中沢新一訳、講談社選書メチエ
『零式艦上戦闘機』清水政彦、新潮選書
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子、朝日出版社
『はじめての言語ゲーム』橋爪大三郎、講談社現代新書
『単純な脳、複雑な「私」 または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義』池谷裕二、朝日出版社
『地学のツボ 地球と宇宙の不思議をさぐる』鎌田浩毅、ちくまプリマー新書
『漱石の漢詩を読む』古井由吉、岩波書店
『ザ・コールデスト・ウィンター』は上・下巻なので、数え方によっては10冊となりますが、これは例年より多いかな、と。そろそろAmazonではペーパーメディアの販売部数はオンライン版が逆転するのではないかともいわれていますが、メディアは変っても、文字列を読み解き、そこから学ぶという本質にかわりがない限り、これからも読書によってしか、知見は広がっていかないと思っています。だから、目を大切にしながら、これからも本を読み続けようかな、と。
ということで、今年の一冊は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子に決めて、例年のようになにもないですが、パチパチと拍手を送りたいと思います。
以下、内容はダブリるかもしれませんが、読んだ新刊書のエッセンスを紹介します(『1968』小熊英二に関してはゆっくり書きます。つか、ソルジェニーツィンの『収容所群島』みたいに、読みすすむのもツライし、感想を書くのもツライ本だから…)。
『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』島田裕巳、文春新書
スミス以降の近代経済学には神学的な発想というか、ユダヤ・キリスト教の伝統から欲望を抑制することが重視されるとともに、「神の見えざる手」に対する信仰なども生まれたという指摘は新鮮。
『鳩山一族 その金脈と血脈』佐野眞一、文春新書
鳩山家のハイレベルな賢弟愚兄っぷりと、艶福家揃いであることに驚くとともに、財力を支えるブリヂストンの興りが地下足袋の底に使われていたゴムだったんだな、と感心しました。
『ジミーの誕生日』猪瀬直樹、文藝春秋
《いずれ昭和天皇は亡くなれば皇太子明仁が天皇として即位する。12月23日は祝日になる。その日に東條が絞首刑になった日だということを日本人が想い出すはずだった。新しい天皇にも戦争責任が刻印され、引き継がれる》(p.266)。ワンイシューながら、いろいろ考えさせられました。
『首相の蹉跌―ポスト小泉 権力の黄昏』清水真人、日本経済新聞社
結果をみれば、小選挙区制という選挙制度においてはマニフェストでしっかりと打ち出された政策でないものを実行しようとすれば信を失うということだろうが、自民党の劣化ぶりが、それに拍車をかけたということか。人材が払底した幕末の旗本たちのような無能っぷりだったと思う。
『リーマン予想は解決するのか? 絶対数学の戦略』黒川信重、小島寛之
ゼータ関数は元々、数を無限に足していくとどうなるか、という問題意識から始まったということを知り、冒頭の1+1+1+1+1+.....=マイナス1/2[=ζ(0)]というあたりに驚愕しました。同時に、1+2+3+4+5+6+....はマイナス1/12になるが、これは物理のカシミール効果と同じということで、まったく関係のない分野がどうして、こんなつながっているのか、とただ、ただ感動します(本当に理解できているかはわかりませんが)。
『哲学的な何か、あと数学とか』飲茶、二見書房
『博士の愛した数式』でeiπ+1=0というオイラーの等式が「なるほど、そいつはスゴイ」と分かったのですが、全く関係のない楕円方程式とモジュラー形式がペアとして存在するのではないかという「全く関係のない分野がつながっている」ことに驚愕。これこそ、センス・オブ・ワンダー。
『物語 ストラスブールの歴史 国家の辺境、ヨーロッパの中核』内田日出海、中公新書
ストラスブールはドイツとフランスの良さを兼ね備えたハイブリッドな都市という印象をずっと持っていましたが、ローマ史からの長く、広い大局観から説明を受けると、なぜこの都市に欧州議会、欧州評議会、欧州人権裁判所というEUの重要な施設が設置されているかという理由に納得すると同時に、副題の「ヨーロッパの中核」という意味も理解できる。いつかは訪れたい都市のひとつ。
『完全ドキュメント 民主党政権』毎日新聞政治部、毎日新聞社
管直人副総理が、省の規模を大幅に縮小すると谷口国交事務次官に告げ「文句があるなら『国土交通党』を作って選挙に出なさい」と挑発した、というのは笑った(p.34)。政権交代とは、そういう意味なんだな、と。
『ザ・コールデスト・ウィンター 下』ディヴィッド・ハルバースタム(著)、山田耕介(訳)、文藝春秋
彭徳懐将軍に率いられた中国義勇軍に包囲された米軍が機関銃とバズーカ砲で殲滅させられる場面のなんと無残なことか。こうした退却路を米兵は西部開拓時代におけるリンチ"gauntlet"と呼んだそうです。
『ザ・コールデスト・ウィンター 上』ディヴィッド・ハルバースタム(著)、山田耕介(訳)、文藝春秋
20世紀がヨーロッパからアメリカに覇権が移った世紀ならば、21世紀は中国に移る世紀なのかもしれません。そういった意味からも、米中が本気で戦火を交え、38度線でなんとか停戦して終わった朝鮮戦争を振りかえるというのは、いま必要な作業なのかもしれない。
『民主党政権』大下英治、ベストセラーズ
舞台裏の話よりも、「第4章 官僚主導政治を打破せよ」で、マニフェストのバックグラウンドになっている考え方みたいなのがわかってよかった。と、同時に、今後、一般会計が百兆円なのに特別会計が三百五十兆円にも達するようになっていった仕組みに、どれだけメスを入れられるかが勝負だと感じました。
『不肖・宮嶋の「海上自衛隊ソマリア沖奮戦記』宮嶋茂樹、飛鳥新社
スペインなんかは一機130億円もする哨戒機P3Cを5機しか保有しておらず、ドイツも8機しか持ってない。ところが、我が海自は100機も持っているんですなぁ。ソマリアに2機を派遣したこと、他国と比べて圧倒的というのがよくわかりました。
『パロール・ドネ』クロード・レヴィ=ストロース、中沢新一訳、講談社選書メチエ
《あらゆる事実が、死の問題に対して人間がとる二つの相補的な応答のようなものとして、生物の中に文化と社会が発生している、ということを示唆している。社会は、動物がみずからの死すべき運命を知ることを拒むものとして生じ、文化はそれを知る人間の対応として生まれている》(p.31)。
『零式艦上戦闘機』清水政彦、新潮選書
この本で改めて理解できたのが「攻勢の優位」。真珠湾の後、南雲連合艦隊は連戦連勝。休養の後はインドまで出かけていってイギリス軍を撃破する始末ですが、そうした攻勢がマッカーサーによる米軍の航空機の運用の大失敗も生む、と。米軍はハリウッドの映画のような無敵な軍隊ではなかったろうけど、いったん体勢を立て直した後は、現実を冷静に見て、それを受けいれ、具体的な効果のある戦術に反映させていった、ということも理解できました。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子、朝日出版社
総動員体制が必要になってくる近代以降の戦争では、国家は戦うための目標を掲げなければならず、膨大な戦死者が出たとき国家は新たな"憲法"を必要とし、さらに言えば《戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の、憲法に対する攻撃、というかたちをとる》というルソーの「戦争および戦争状態論」を引用し、相手が最も大切だと思っている社会の基本を成り立たせる秩序に根本的な打撃を与えるのが戦争だというわけです。また、太平洋戦争へのポイント・オブ・ノーリターンが熱河侵攻作戦ではなかった、ということにも想いを致しました。
『お金をかけずに食を楽しむフランス人 お金をかけても満足できない日本人』吉村葉子、講談社文庫
「サラミがあって、買いたてのバゲットがあればいいんだわ。それとレタスがあれば、それだけで最高よ」
『初期キリスト教の霊性 宣教・女性・異端』荒井献、岩波書店
原始キリスト教の共同体はヘレーニスタイとヘブライオイに別れますが、使徒行伝12:12でペトロがマルコと呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った、という「家」は、マルコがラテン名であるからギリシア語を喋るユダヤ人であるヘレーニスタイの教会である可能性があり、最初期の1:13-14に言及されている、所謂「屋上の間」のある家がヘブライ語しかしゃべらないヘブライオイたちが集まっていたのと比較できる、というあたりは、その様々な証拠のひとつとして覚えておこう、みたいな。
『はじめての言語ゲーム』橋爪大三郎、講談社現代新書
『論考』のエッセンスは世界は分析可能であり、言語も分析可能であり、世界と言語とは互いに写像関係にあり、一対一で対応している。これは「言語と世界が対応するように言葉を使え」ともいえる。『論考』の「7 語りえぬことについては、沈黙しなければならない」の意味は、こうしたやり方以外での言語の使用を禁じるという意味ではないか。しかし、科学の言語は一対一で世界と対応するが、それ以外のあり方をする言語もある。そうした言語の意味を、一般的に成り立たせている原理は「ゲームの理論」。私たちが言語を話せるようになったのは、言葉を理解したからであって文法を教わったからではない。数列の並びを理解するように、いくつか実例をやっているうちに「わかった!」となる。社会は言語ゲームの集まりであり、ある人々が何かの規則で言語ゲームをやっているそばを通りかかった私は、それを見ているうちにナニをやっているかだんだんわかってきて、仲間に入ることもできる。『論考』時代は「言語と世界は一対一に対応する」という写像理論によって、言葉が意味を持つという根拠付けを行っていたが、後期のヴィトゲンシュタインは、言語ゲームをその根拠としているーというのが橋爪さんのウィトゲンシュタイン論。
『臨床瑣談 続』中井久夫、みすず書房
医者と弁護士の報酬は成功報酬ではなく努力報酬だ、と書いてあったんですが、なるほどな、と(p.108)。昔の(平成大不況前の)サラリーマンも似たようなものだったと思うんですが、いまは公務員とか専門職を除いては努力報酬(とにかく仕事すれば結果だせなくてもOK)の人って少なくなりましたよね。そして成功報酬という結果を出さなければならない人たちの報酬が少なすぎる、というのが今の社会の問題なのかな、と。
『サンデーとマガジン 創刊と死闘の15年』大野茂、光文社文庫
『巨人の星』の誕生秘話は印象に残る。内田勝編集長が原作者の梶原一騎さんに「新たな国民文学をつくりたいんです」と希望を伝える場面と、貧しくて子どもの頃から働きづめで野球で遊んだことがかなかったという川崎のぼるさんに一度は断られるものの、作画を依頼して傑作を生み出したそうです。
『ノモンハン戦争 モンゴルと満洲国』田中克彦、岩波新書
ノモンハン事件ではなく、ノモンハン戦争。日本軍もいろいろやったのですが、旧ソ連というかスターリンはすさまじいもんですな。旧ソ連によって国家反逆罪で処刑された者の数は人口70万人に対して2万人にのぼるそうです(p.118)。また、1921年に独立して以来、歴代の指導者で生涯をまっとうしたのはチョイバルサン首相ただひとりで、あとは全員、粛正されたそうです(p.204)。
《清王朝は、水にゆかりがあることにより、その名「清」にあるサンズイにあわせて満も洲もすべてサンズイのある文字として定めた》というあたりも、なるほどな、と。
また、ノモンハンという語のノムは、ギリシア語のνομοsに起原を持つ「法」「法王」という意味だそうで(p.4)。汎モンゴル主義などの汎も、元はギリシア語のπανからきていることも含めて、ギリシア語の受容というのは面白いテーマだな、と思いました。
『新型インフルエンザ完全予防ハンドブック』岡田晴恵、幻冬舎文庫
あの騒ぎは、強毒性の新型ウィルスが爆発的に感染するという前提だったんだな、といまになって思います。
『単純な脳、複雑な「私」 または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義』池谷裕二、朝日出版社
"知覚の現象学"が、哲学的な言葉だけでなく脳の動きが高速の顕微鏡で動画としてみられるようになってきていることに驚く。今まで哲学的に不思議だったことが、リアルな細胞の動きで説明されてしまう凄さといましょうか。
逆さメガネにも驚きます(p.110)。天地が逆に見えるプリズムをつけても人間は馴れれば普通に生活できるようになるというあたりから、脳というのは世界を再構築しているんだという話にもっていくわけですが、そもそも網膜は凸レンズ一枚の構造。虫眼鏡で遠くの風景を見ると逆立しますが、実は《僕らはそもそも常にひっくり返った世界を見ているってことなんだ》そうですわ(p.110)。で、脳内で画像を矯正している、と。
人間というのは常に自分を他人の視点から見つめることで、モノマネをしながら経験を積んで生きていくみたいな話の流れも素晴らしかった。これって「言語ゲーム」じゃないっすか。
『経済学の名著30』松原隆一郎、筑摩新書
《流行の衣服から高等学術までが「他人への見せびらかし」にすぎないと断じた》ヴェブレン『有閑階級の理論』、ユダヤ教の世俗内的禁欲によって蓄積されたエネルギーが経済活動において爆発したことがプロテスタンティズム以上に資本主義の生成に機能したというゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』などの紹介は印象に残りました。
『富士には月見草 太宰治100の名言・名場面』太宰治(長部日出雄編集)、新潮文庫
太宰治の生誕100年に新潮文庫から、気合いの入ったアンソロジーが出ました。太宰ファンなら、どーぞ。
『金融無極化時代を乗り切れ!』丹羽宇一郎、文藝春秋
《私たちの世代は、一九六〇年から七〇年代にかけての若い頃、安保闘争を経験しました。しかしそれ以降、若者たちは死んでしまったのではないか。未熟であるがゆえにたぎる正義感、あるいは社会や傲慢な強い権力に対する反発心、そうした無鉄砲さが失われてしまっているように見受けられるのです。それを取り戻してほしい。未熟者の無鉄砲さに任せて日本が衰退したら、所詮その程度の国だったということでしょう。しかし私はそうは思いません》(序にかえて)。
『神の雫作者のノムリエ日記』亜樹直、講談社
asahi.comに連載されている『神の雫』の原作者である亜樹直さんによるエッセイ集。
Henri Jayer(アンリ・ジャイエ)作のEchezeaux(エシェゾー)やVosne Romanee Clos Parantoux(ヴォーヌ・ロマネ・クロ・パラントゥ)、Richbourg(リシュブール)、ヴァンサン・ジラルダンの「エシェゾー」なんかを飲みたい。
『自衛隊が危ない』杉山隆男、小学館新書
田母神・前航空幕僚長に対して、浜田靖一防衛大臣から辞表を書くように迫られて拒んだことを最も問題にして《軍を支える最大の掟、上意下達に背いたことにならないだろうか》《命令が正しいのかどうか、部下がいちいち判断して、従うかどうかを決めるような組織なら、それはもう軍隊とは言えないはずである》(p.50-51)と嘆く。
『絵解きでわかる聖書の世界 旧約外典偽典を読む』秦剛平、青土社
ヨセフスの研究家でもある秦剛平先生は普段、多摩美術大学で教えており、『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『反ユダヤ主義を美術で読む』というシリーズを出していて、その第四弾がこの本。
『政権交代論』山口二郎、岩波新書
自民党は常に二点張り(強者と弱者、中央と地方、第二次産業と一次産業)で安定した政権運営をこなしていが、細川政権の成立の過程で、中道左派が党内から去り、清和会主導の右派が多数を占めるようになった、と。自民党は小泉政権による一点張りの政権運営が一時は大成功を収めたものの、首相府への権力の集中は《この統治モデルを担うだけの力量を持たない政治家がリーダーの地位についた場合、リーダーの無力、無能さがことのほか目立つ結果になり、自民党や政権に対する不信をかえって強め》(p.152)たという。安倍、麻生の無能内閣による自民党敗北をよく説明していると思う。
『地学のツボ 地球と宇宙の不思議をさぐる』鎌田浩毅、ちくまプリマー新書
大陸プレートとぶつかった海洋プレートが沈み込んでいくとマントルに冷たい部分ができてきて、それがやがて集まって中心部の核に向かって下降していく、と。下降していく冷たいプルーム(煙)があれば、逆に核から熱いプルームがわき上がってくるものもある、と。そうしたマントル内の動きが「プルーム・テクトニクス」である、というのには驚きました。読むだけでなんか少し賢くなったような気分になるぐらいの目ウロコ本。
『世界がわかる理系の名著』鎌田浩毅、文春新書
アウトリーチの重要性については、口を酸っぱくするぐらい強調していたのが印象的。あと、理系の研究者には自然界の一次データを取るモノ派と、これを料理して面白い話を作りあげるスジ派があるなんていう話も素人には面白かった(pp.49-)。
『杜甫 偉大なる憂鬱』宇野直人、江原正士、平凡社
国破山河在 国破れて山河あり
城春草木深 城春にして草木深し
感時花潅涙 時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
恨別鳥驚心 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火連三月 烽火三月に連なり
家書抵萬金 家書萬金に抵(あた)る
白頭掻更短 白頭掻かけば更に短く
渾欲不勝簪 渾(す)べて簪(しん)に勝(た)えざらんと欲す
『李白 巨大なる野放図』宇野直人、江原正士、平凡社
蘭陵美酒鬱金香(らんりょうのびしゅ うこんのこう)
玉椀盛來琥珀光(ぎょくわんもりきたる こはくのひかり)
但使主人能酔客(ただしゅじんをしして よく きゃくをよわしめば)
不知何處是他郷(しらず いずれのところか これたきょう)
『漱石の漢詩を読む』古井由吉、岩波書店
仰臥人如唖 仰臥人唖(おし)の如く
黙然見大空 黙然として大空を見る
大空雲不動 大空に雲動かず
終日杳相同 終日杳(はる)かにして相い同じ
『ローマ亡き後の地中海世界 下』塩野七生、新潮社
下巻はブローデル『地中海』第三部のサマリー、みたいな。
『ローマ亡き後の地中海世界』塩野七生、新潮社
『ローマ人の物語』と『海の都の物語』の空白期間を埋める作品だが、それにしても、その空白期間というのが、これほどイスラムによる海賊行為に彩られていたとは、ちょっと驚く。
『ポスト戦後社会 シリーズ日本近現代史 9』吉見俊哉、岩波新書
《夢」の時代が内包する自己否定の契機を極限まで推し進めたが一九七一年から七二年にかけての連合赤軍事件であったなら、九〇年代、「虚構」の時代のリアリティ感覚を極限まで推し進めていったところで生じたのは、オウム真理教事件であった》(はじめに)。
自民党政治を池田内閣から田中内閣までの高度経済成長路線と、中曽根内閣から小泉内閣までの新自由主義路線、そしてブレーン・トラストの組織化などでそれを準備した大平政権という大づかみな姿を示したところは新鮮。
『【信長の戦い1】桶狭間・信長の「奇襲神話」は嘘だった』藤本正行、洋泉社新書
桶狭間の戦いは、信長によるゲリラ的な迂回攻撃が奇跡的に成功した戦いだとずっと思っていたが、太田牛一が『信長公記』で描いているように、信長が偶然仕掛けた正面攻撃が、たまたま今川義元のいる本隊にクリーンヒットし、総崩れになった、ということのこと。
.....................サッカー関連は以下.....................
『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』宇都宮徹壱、東邦出版
ぼくたちはどれだけ世界のサッカーのことを知っていのか、と静かに問いかけてくる本。
『ダービー!! フットボール28都市の熱狂』アンディ・ミッテン(著)、澤山大輔(訳)、東邦出版
相手を罵倒するためならば、なんでも利用するというのは、ブリコラージュ(bricolage) そのもの。レヴィ=ストロースでありませんが、こうしたところからしか「神話的思考」は生まれてきません。
『「J」の履歴書 日本サッカーとともに』川淵三郎、日本経済新聞出版社
日本サッカー最大の功労者が、日経の連載を大幅加筆して書いた自伝。ナベツネさんとの抗争は有名だが、その背景に、J発足当初の異常なまでのベルディ人気があったというのは、忘れていました。金沢八景というのは朝日新聞の金城湯池というか朝日のシェアが圧倒的に高い地区だったというのですが、ベルディの切符を持って拡販に行ったら面白いように読売に乗り換えてくれたというんですね(p.245)。これでナベツネさんもはりきっちゃった、と。直後に朝日新聞からも「ウチにもチームを持たせてくれ」という嘆願が来たというのも含めて笑った。
『「51歳の左遷」からすべては始まった』川淵三郎、PHP新書
思い切って言えば、中高年にとって「希望の書」。Jリーグを立ち上げて、プロリーグをスタートさせ、ワールドカップに代表チームを送り、2002年にW杯主催したという仕事を全て古河電工をリストラされた51歳以降になしとげたのですから。
『サッカー 誰かに話したいちょっといい話』いとうやまね、東邦出版
世界各地の名もないサポーターたちの、少年時代の思い出をあつめたもの。イスラエルでも安息日なんていうのは案外守られていなかったり、イスラム諸国でも戒律なんていうのは無視されているみたいな話も、明るく語られているのは救いだな、と感じる。
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