歌舞伎の歌舞伎である所以『大江戸りびんぐでっど』
歌舞伎座は今月も演目は感心しません。
昼の部には2つ松羽目物が入ってます。なんなんでしょうかね、このセンスは…。
でも、いいの。宮藤官九郎(クドカン)の作・演出の新作を持ってきてくれたから。
パンフレットでも、新作の歴史が語られていましたが、役者さんも古くからある得手のものばかりやっていては進歩がありません。
とはいっても、新作はほんど忘れ去られてきます。
でも、谷崎潤一郎、三島由紀夫らの文豪をはじめ池波正太郎、井上ひさし、野田秀樹など流行作家は次々と歌舞伎のために新作を書き続けました。まるで歌舞伎という女王蜂に奉仕する働き蜂みたいに。
それだけ魅力的なんでしょうね。小屋も役者も。
最近では『NINAGAWA 十二夜』なんかもよかったのですが、多くの中途半端な時代劇っぽい新作なんかと比べると『大江戸りびんぐでっと』は圧倒的なケレン味があります。
このケレン味がないと歌舞伎じゃないと思うんですよね。
物語は新島で一番の「くさや汁」が死人を生き返らせ、ゾンビとしてしまい、大江戸で増殖するリビングデッドは派遣労働者になって不況を克服するかにみえるが…というものですが、宮藤官九郎さんもどこかで書いていたと思いますが、花道も舞台もゾンビで埋めて、スリラーみたいに踊らせてみたいなとこからつくられたんだと思います。
和尚実は死神の獅童の役が、とにかく獅童に役をつけるためだけのような感じがしたり、いろいろ工夫する要素はあるでしょうが、最後の永代橋のカタストロフも含めて、一気に見せてくれますし、見終わった後に、妙な満足感があります。
染五郎さんは『女殺油地獄』の与兵衛がよかったんですが、考えもなしに刃物を振るってしまうような、軽すぎる刹那的な男を演じると無類の上手さがあると思います。それも含めて、現代の歌舞伎だと思いますね。
さらに、歌と踊りがある。
新派にやらせておけばいいんじゃない?みたいな新作ではなく、浄瑠璃と三味線が『大江戸りびんぐでっど音頭』『はけん節』を奏で、舞台狭しとりびんぐでっとが踊りまくる。
よかった!
大江戸りびんぐでっど音頭
作詞:宮藤官九郎、作曲:向井秀徳、振付:八反田リコ
えど おおおえど りびんぐでっど 本土 上陸 りびんぐでっど 飛び散るぶらっど りびんぐでっど 生ける屍 りびんぐでっど りびんぐでっど いん えど りびんぐでっど いん えど
はけん節
作詞:宮藤官九郎、作曲:向井秀徳、振付:八反田リコ
はけんだ はけんだ 俺たちゃはけんだ らくだじゃねぇぞ はけんだぞ はけんだ はけんだ 俺たちゃはけんだ らくだじゃねぇぞ はけんだぞ意識はねえが やる気はあるじ
文句があっても 言わねえぞ
死んでる以外は問題ねえぞ
死んでる以外はお前と同じはけんだ はけんだ 俺たちゃはけんだ
ぞんびじゃねぇぞ はけんだぞ
はけんだ はけんだ 俺たちゃはけんだ
幕府が認めた はけんだぞらくだがどうした 俺たちゃはけんだ
幕府が認めた はけんだぞ
怖いもんねえぞ 死んでるからな
ぞんびじゃねえぞ はけんだぞ死んでるわりには気が利くぞ
死んでるわりには愛想がいいぞ
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