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November 11, 2009

『物語 ストラスブールの歴史』

Strasbourg

『物語 ストラスブールの歴史 国家の辺境、ヨーロッパの中核』内田日出海、中公新書

 サッカー好きの人間ならば、ストラスブールは元名古屋グランパスの監督であり、現アーセナル監督のアーセン・ベンゲルの出身地として思い起こす方も少なくないと思います。ベンゲルはフランス人でしたが、どことなくドイツ的な雰囲気を感じました。また、ストラスブールはアルザス地域圏の首府でもありますが、アルザスワインの瓶の形はドイツワインのような「フルート型」をしています。

 ドイツとフランスの良さを兼ね備えたハイブリッドな都市という印象をずっと持っていたというか、普仏戦争、第一次大戦と大きな戦争のたびにドイツとフランスの間をいったりきたりしてきたという歴史も常識の範囲では知っていましたが、ローマ史からの長い大局観から説明を受けると、なぜこの都市に欧州議会、欧州評議会、欧州人権裁判所というEUの重要な施設が設置されているかという理由に納得すると同時に、副題のひとつである「ヨーロッパの中核」という意味も理解できます。

 また、著者の問題意識が強く出ているところなのですが、ドイツかフランスかという帰属は、近代的な国民国家以降の問題であり、そうした時代にあってストラスブールは単なる地方行政の中心地という役割しか与えられていません。しかし、ヨーロッパが浮上してくると、俄然、ストラスブールは輝きを増すのです。

Strasbourg_history

 ストラスブールの歴史はアウグストゥス治下のローマ帝国がBC12年にアルゲントラーテ(Argentorat、水の要塞の意)を建設したことに始まります。なぜローマがこのを選んだのかというと、それは《東西においてはゲルマーニア世界とローマ世界の結び目をなし、南北においては国際河川のライン河が滔々と流れている》という重要な国境の町だったからです。そしてカトリシズム、ラテン的知を基礎とするヨーロッパ世界の十字路としてのストラスブールはB.C.12年からA.D.1681年まで続きます。1514年に訪れたエラスムスが評したという「専制政治なき王国、党派争いなき貴族政、騒乱なき民主政、奢侈なき富、厚顔さなき繁栄」という表現は、ストラスブールに対する最大級の賛辞でしょう(p.55)。その後は、フランスとドイツの間を行ったり来たりする時代は、両国にとっての辺境としての位置づけになります。しかしEU発足後、1993年からは再びヨーロッパ世界の首都としての地位が戻ってくる、というのが著者の大局観です(p.15の左をフランス領時代、右をドイツ領時代に分けた年表は秀逸です)。

 この間、ストラスブールはルター派の拠点となったこともあるし、カトリシズムが復活したこともありましたが、ストラスブール大学の《二つの神学部はフランスで唯一、神学の学位を出せる学部であった》そうです(p.260)。また、一般にドイツの料理は不味いという印象があるにもかわらずフォワグラ料理を生み出します。なんとも魅力的な都市じゃありませんか。

 また、普仏戦争後にシュトラースブルク(ドイツ語では街道の街の意)となったこの都市を支配したのは、ビスマルクのエドヴィン・フォン・マントイフェルでしたが、彼はビスマルクのライヴァルだったそうです。プロイセンも重要視していたということなんでしょうね。

 その後もいろいろあり、第二次大戦後、ストラスブールはドイツから解放されますが、《EUの体制的な深化とともにヨーロツパへの開放が現実味を帯びるとき、実はストラスブールある意味でフランスからも解放されるのである》というのが著者の結論でしょう(p.274)。

 個人的には恩師がストラスブール大学で博士号を取得したということもあり、いつかは非対称な姿が印象的だというカテドラルにも訪れてみたいものだと思います。

 にしても、この本ではアルザス語を初めて知ったのですが、紹介されている「私はストラスブールにいたことがある」という文章を読んで愕然としました。

 Ich bin in Strassburi gsin.

 もうほとんどドイツ語の方言ですね。

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