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November 13, 2009

『日本軍のインテリジェンス』

Inteligence_of_japanese_army

『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』小谷賢、講談社選書メチエ

 旧帝国陸軍、海軍の情報活動に関しては、これまでも史料があまり残っていないということも含めて、まとまった研究はなかったといいます。しかし、史料がないからといって本を書かないのは研究者の怠惰だという英国のインテリジェンス研究の泰斗から叱咤を受けて奮起した、とあとがきで書いていますが、勤務先が防衛研究所の史料室ということもあり、丹念に探すことによって新しい史料が次々と出てきたそうです。

 この本は加藤陽子先生がベタ褒めしていたので手に取ったのですが、いやー、加藤先生の推薦にはハズレがありません。とにかく、まったく新しい分野の研究なので、知らなかったことが次々と出てきて、読むだけで驚きの連続でした。

 例えば、日本のインテリジェンス事始めはどこ経由だったと思います?

 なんとポーランドですよ。

 日本軍の情報戦はシベリア出兵後の交渉をキッカケに始まり、その相手であるソ連の暗号を解読したのがポーランドだったという。ソ連の暗号を読みたいと思っていた東京の参謀本部で、たまたまポーランドでソ連の外交暗号を解読しているという情報があり、ポーランドから軍人を招聘して講習を受けたというんです(p.27)。そりゃ、ポーランドはロシア時代から圧迫を受けていたでしょうから、暗号解読なども行われていたんでしょうね。

 その後も実に日本らしい。

 いったん暗号の解読に成功すると、次は米国、さらには中国の暗号解読に成功してしまうんです。特に米国の暗号に関してはグレー、ブラウン、ストリップといった進化する暗号を次々解読してしまう。逆にポーランド相手にソ連の暗号をガンガン教えるようになって感謝されてしまうというあたりは、戦後の経済成長の成功譚みたい。1943年にはウォーレス副大統領が重慶まで飛行することを掴み、満洲上空で撃墜する計画も練られていたというんですから大したもん(コード表は警備の手薄な領事館に内通者の手引きで忍び込んで入手したそうです)。

 しかし、さすがなのは英国。高度なものを使っていたそうです。しかし、ぼくたちのお祖父ちゃんたちは、最終的にはシンガポール要塞の正面が弱いということまで掴んでしまったそうです(p.31)。

 ここらへんで、日本は情報戦で相当、米英に遅れていたという固定観念はぬぐいさることができたのですが、それはあくまで帝国陸軍。一方の海軍は「海軍乙事件」で暗号書表が敵に渡るほど情報管理がズサンで、暗号は米英に漏れっぱなしだったそうです。

 この差は何だったのかというと防諜。防諜はカウンター・インテリジェンスの意味だそうですが、自分たちの組織の防諜がしっかりしていないと、情報活動というのはそもそも成り立たないんだな、と思いましたね。帝国海軍は戦果調査もずさんで、昭和天皇から「今度でサラトガの撃沈は4度目ではないか」とたしなめられたというのは笑うに笑えません(p.135)。

 それと同時に、陸軍は自分たちが解読に成功していた米国のストリップ暗号を、米国の矢面に立っている海軍に伝えなかったことには驚きあきれました。セクショナリズムここに極まれりという感じです(p.83)。。

 エピソードとして面白かったのは1941年4月にベルリンの大島浩大使が、ヒトラーとリッペントロップは独ソ戦が避けられないと考えているという情報を東京に流した件。日本では日独伊にソ連を加えた四ヵ国で米英に対抗しようという松岡洋右の構想があったために無視され、逆にこれを傍受したイギリスのチャーチルは、ルーズベルト大統領にこの情報を伝えるとともに、独ソ戦が開始されたらソ連を援護すべきだという方針まで提案したというんです(p.178-)。

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