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November 28, 2009

『首相の蹉跌』

Failure_of_prime_minister

『首相の蹉跌―ポスト小泉 権力の黄昏』清水真人、日本経済新聞社

前作の『官邸主導 小泉純一郎の革命』清水真人、日本経済新聞社も非常に面白かったのですが、今回もタイムリー。東洋経済の09年上半期政治書ベスト1にもなったということで、読んでみました。

前作の問題意識は、全会一致の総務会を経て自民党本部が呑まなければ何も動かなかったという重層的な非決定システムが小選挙区制度による党本部への権限集中によって解体されていく中で、橋本政権から着々と強化された首相権力の基盤強化をバネに、小泉政権が一気に医療制度や道路公団さらには郵政まで変えてみせたという流れ。これを受けての今回の作品は、なぜ衆議院で2/3という絶対的な安定多数を持ちながら安倍・福田・麻生政権が三年間ほとんど何もできぬまま沈没していったのか、という問題を描いています。

結論的にいえば、小選挙区制という選挙制度においてはマニフェストでしっかりと打ち出された政策でないものを実行しようとすれば、信を失うという結果が続いている、ということだろうと思います。

その予兆は実は郵政解散の前の03年11月の解散・総選挙にあったということなんでしょうね。ここで、小泉首相は9月の自民党総裁選挙を「もし支持しなければポストはおろか選挙での公約もない」ことをチラつかせつつ、郵政民営化を次期総裁任期の三年間で実現することを公約に掲げて当選。11月の総選挙でも勝利。しかし、くすぶっていた反小泉の機運が参議院での郵政民営化法案を否決。これでは有権者との約束を果たせないと解散に打ってでたのが郵政選挙でした。

参議院での否決を受けて衆議院を解散するというのは江戸の敵を長崎で討つことになるんじゃないかという議論もありましたが、英国では《政権を生み出す機能も持たず、解散もない第二院は政権の死命を制しかねない議決は自制する》という「ソールズベリー・ドクトリン」と呼ばれる不文律があるそうです。著者は《小泉政治をポピュリズム(大衆迎合)の一言で片付けては、リスク覚悟で先鋭的なマニフェストを掲げ、世論に能動的な働きかけた「強い宰相」の本質を見誤る》と書いていますが、ぼくも同意見です。今の「事業仕分け」なども、小泉政権が医療制度改革や道路公団分割と郵政民営化によって、官僚機構の力をある程度、弱めていたから可能になったと思っていますから。また、積極的財政出動によって総需要を喚起するというケインズ流の景気刺激策を事実上、禁じ手にしたというのも大きな功績だと思います。

しかし、小泉首相も後継に史上最低の能力しか持っていなかった安倍晋三を指名することでミソをつけ、その後の自民党は小沢・民主党に抱きつこうという戦略があと一歩のところで上手くいかなかった福田政権を経て、これまた史上最低レベルの麻生政権でジ・エンドとなります。

つくづく小泉首相というのは壊し屋だったんだな、と思いますね。もちろん、今の民主党政権につながるという意味では、正しいことをやりとげたんだと思いますが。

なぜ小泉政権末期に安倍晋三を後継とするような緩みが出たのかという問題に関しては、あまりにも郵政選挙で大勝したからだ、と書かれています。それまでは「抵抗勢力」という共通の敵を持っていた竹中と飯島というソリの合わない二人の司令塔に亀裂が深まったからだ、と。

改革後の大問題は財政改革。竹中路線は、名目GDPを安定的に引き上げる中で、プライマリーバランスが均衡していけば、債務残高自体は増えても相対的な負荷は小さくできるというものです。ところが、中長期的には長期金利は名目成長率より高くなるので、それだけでは不十分だというのが与謝野馨の増税アプローチ。小泉政権の終焉の過程で飯島秘書はこれに乗ろうとして、福田政権誕生の時には積極的に動きますが、小泉首相が福田支持に回ったことで、事務所からも去ることになります。

安倍政権については語ることも個人的に不愉快なのですが、《憲法改正を長期目標として掲げることは自由だとしても、次の衆院選までに実行することは不可能であり、有権者として評価するすべもない》(p.107)というのはフェアな評価なのかもしれませんね。あと、無責任にも病院から執務したという非常識な政権最末期には、内閣法九条に潜む問題も浮かび上がったといいます。こうした場面で病気の首相と留守を預かる官房長官の判断が対立した場合、官邸の実務を仕切る官房副長官や内閣法制局長の助言が鍵を握るかもしれず、もしそうした場合に内閣官房副長官に政治的な任免をしすぎると、公平な助言を行うという役割が期待できず、官邸全体が判断停止状態になるかもしれない、と筆者は指摘しています(p.247)。

福田政権に関しては、揮発油税などの暫定税率の一時的な廃止阻止を狙った「つなぎ法案」提出を最後の段階であきらめたことが、ボタンの掛け違いだったと語っています(p.303)。つなぎ法案を成立させて与党が優位に立つことによって、初めて本格的な話し合い路線が生まれたハズだったというのは、なるほどな、と。そうなれば道路財源の修正や日銀総裁問題もバーターで取引できたかもしれない、と。

後は、外為特会の問題もわかりやすく書いてありましたね(p.325)。にしても、99円で実質、積立金はゼロになるというのですが、この円高では、どれだけ毀損されているのか心配です。埋蔵金が負債になりかねない話ですらね。

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