由良之助役者は七段目、由良之助は仁左衛門
歌舞伎の本の中で(いや、もちろんわかりますよ、元はと云えば人形浄瑠璃であったとことは)、一番、色っぽい役は、仮名手本忠臣蔵の七段目の大星由良之助だと思います。
大望(それは自身の破滅をも意味するわけですが)を秘めつつ、それを敵方に悟られぬように、派手な紫の着付けで羽織を片袖はずし、頭には飾り紙をつけて一力茶屋で遊ぶ由良之助。
しかも出は目隠しされている。
自らの運命に翻弄されつつ、あえて死を想わず、一時の享楽に身を委ね、酒に溺れながらも、醒めている部分もある。
こんなに自分をコントロールしつつ、死に向かって疾走していく姿なんて、カッコ良いに決まってます。
でも、余りにもカッコ良いから、演じる役者には格が求められる。
仁左衛門さんは、おそらく、今の歌舞伎座で、仮名手本忠臣蔵の七段目の由良之助を演じるのは、自分が最後だと思って舞台に立っていると思います。
その覚悟が、由良之助の覚悟と重なって、この由良之助を見物して、本当に良かったと思いました。
ぼくの知っている範囲では、先代の幸四郎さんが最高の由良之助役者だと思っていましたが、仁左衛門さんの由良之助は色っぽさと悲劇性を、より深く感じさせられました。
観てよかったな、と思います。
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