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October 14, 2009

『戦争の論理』加藤陽子

Sensouno

『戦争の論理 日露戦争から太平洋戦争まで』加藤陽子、勁草書房

 集中的に読んでいる加藤陽子さんの本ですが、これまでまったく裏切られることがありません。

 今回は本を書いたモチベーションが素晴らしい。

 あとがきで加藤さんは、米国との外交交渉の期限を10月上旬と決めた1941年9月6日の御前会議で、永野修身軍令部部長が、このままでは大阪冬の陣のように、いったん平和を得たとしても翌年の夏には手も足も出ないという情勢で再び戦わなければならなくなると説明、それに対して昭和天皇が「四方の海」という和歌を引用したというエピソードを紹介して《外交政策などの決定にかかわる者は、現在の死活的に重要な問題を処理する時には過去からの類推を行い、未来を予測する時には過去との歴史的対比を行う。しかし、その際、類推され、想起され、依拠される歴史的事例が、講談や和歌というかたでしか提供されないのは不自由なことなのではないだろうか》と書いています。

 加藤さんが御前会議と比べるのは、キューバ危機の時のケネディ大統領。ケネディは第一次世界大戦の最初の1ヵ月を描いたタックマンの『八月の砲声』を引用して戦争回避の必要性を訴えた、といいます。

 あとがきは《あるいは、この先、歴史小説や大河ドラマというかたちでしか提供されないのは不幸なことではないだろうか》とも続くのですが、「第6章 統帥権再考 司馬遼太郎氏の一文に寄せて」をわざわざ入れているのは、今年スタートする『坂の上の雲』を意識しているのかな、と思いました。ぼくも司馬さんの本は好きですが、『坂の上の雲』のようにバルチック艦隊に対する敵前回頭、一斉砲撃が勝利を決めたというわかりやすさよりも、敗者であるロシア側が指摘した旅順攻略戦における陸海軍との連携作戦が見事だったというような形に、議論を進化させていかなければならないと思います。

 統帥権に関しても「この国のかたち」で語られているように、その独立が魔法の杖のように働いて軍の政権掌握が行われたのではなく、《むしろ内閣総理大臣に閣僚任免権を認めなかった日本の法体系こそ、問題にされるべきできないか》(p.153-)と指摘します。そして、軍部の政治的擡頭を可能としたのは軍部大臣現役武官制であり、統帥機関の暴走を可能にしたものこそ「統帥権の独立」ではないかと分析します。また、大本営の設置も、二十世紀の戦争が作戦の集積にとどまるものではなくなってきたからだ、とも。

第1章 軍の論理を考える
第2章 政友会における「変化の制度化」―田中義一の方法
第3章 日露戦争開戦と門戸開放論―戦争正当化の論理
第4章 中国とアメリカを同時に捉える視角―一九一四~一九一九年
第5章 ロンドン海軍軍縮問題の論理―常備兵額と所要兵力量の間
第6章 統帥権再考―司馬遼太郎氏の一文に寄せて
第7章 反戦思想と徴兵忌避思想の系譜
第8章 徴兵制と大学
第9章 敗者の帰還―中国からの復員・引揚問題の展開
第10章 政治史を多角的に見る

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