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September 26, 2009

『パロール・ドネ』

Paroles_donnees

『パロール・ドネ』クロード・レヴィ=ストロース、中沢新一訳、講談社選書メチエ

 レヴィ=ストロースの著書はタイトルがいいですよね。『悲しき熱帯』『野生の思考』『やきもち焼きの土器つくり』とか。

 レヴィ=ストロースが1982年に定年退職するまでつとめていたコレージュ・ド・フランスにおける毎年の研究報告を約30年分まとめたのが『パロール・ドネ』。中沢新一さんが翻訳(監訳?)している本なのですが、元々のParoles Donneesは直訳すると「与えられた語り」とでもなるんでしょうか。まあ、学術書の場合はタイトルも日本語化しなければならないのかもしれませんが、講義録ということで、わけのかわらない方がなんとなく良いと判断されたんでしょうか。確かに語感はいいと思いますが…。

 まあ、そんなことはおいといて。

 大部なものが多く、もはや古典というか文化人類学の基幹にもなっているレヴィ=ストロースの著作をいちいち当たらなくても、そのエッセンスを知ることができるというだけで素晴らしい訳業だと思います。また、神話、親族の構造などレヴィ=ストロースの研究分野ごとに講義が分かれているので、それぞれの著書がどのように構想され、肉付けされていったのか、ということもよくわかります。

 また、30年間の長い間、まったく変わらなかったであろう徹底性も感じることができました。

 例えば、『親族の基本構造』はオーストラリアの部族を中心に書かれていますが、南アジア、東南アジア、東アジア、東部シベリア、南北アメリカにまでその研究対象は及び、きわめて広大な地域を網羅しています。

 これと同じように、日本を含む全世界の神話を扱っているのが全4巻の『神話論理』ですが、同じような徹底さを感じさせてくれます。講義録も一番多く収められていますし、中沢さんが訳者あとがきで書いているように《朝まだき小鳥たちといっしょに目覚めて『神話論理』の執筆にとりかかり、講義のある日の午後にはコレージユに出かけ、いま書いている巻よりもずっと先の部分について、即興をまじえながら講義をおこった》と想像を交えて書いているような本人が楽しんで研究しているという気分まで伝わってきます(引用は若干アレンジ)。

 その最初の講義は1950年代から始まっているのですが、アメリカの東部のインディアンの神話に始まり、それが西部まで拡大し、さらには南アメリカ、アジア、ヨーロッパの神話との関連性まで語られていくというシステマチックさには驚きました。中沢さんも訳者あとがきで書いているのですが《素材となった二〇〇〇個を超える神話たちの、その宇宙全体の中での居場所が最初から決まっていたのですはないかと思わせるような仕事ぶり》です。

 例えばナマケモノの位置づけ。

 《東ボリビアのタカナ族もオランダ領ギアナ(現スリナム)のカリナ族も、ナマケモノを宇宙論的なシンボルにしており、さらに、興味深いことには、その役割をこの動物の排泄機能に関する習性に見られるいくつかの特徴によって説明している》(p.139-)というんです。南アメリカとアフリカに住む別々の部族がですよ!

 その習性とはナマケモノが何日かおきに地面に降りてきて、いつも同じ場所に排泄するというもので、神話においては"節度ある肛門=消化器"を現しています。一方、その逆に"貪欲な口=節度なき消化器"を現しているのが鳥類のヨタカです。そしてナマケモノ/ヨタカという動物のカップルで、肛門的性格と口腔的性格の対比を表しているというんですよ!さらにレヴィ=ストロースはアメリカ・インディアンの神話から聖杯伝説と同じ構造も読み取ります(しかし旧石器時代的な基層という仮説は排除した、とp.174で語っているように語り口はあくまで抑制的です)。

 これ以上、ぼくがつまらない紹介するのもなんですから、ぜひ、後はお読みください。

 ということで最後に気に入ったところの引用で終わります。

 世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。制度、風俗、習慣など、それらの目録を作り、それらを理解すべく私が自分の人生を過ごして来たものは、一つの創造の束の間の開花であり、それらのものは、この創造との関係において人類がそこで自分の役割を演じることを可能にするという意味を除いては、恐らく何の意味ももってはいない。

 これはレヴィ=ストロースが40代後半に書いた『悲しき熱帯』のラストに近い部分の言葉です(中公クラシックスのII巻のp.425)。

 ここから『構造人類学』『今日のトーテミスム』『野生の思考』『神話論理学』『構造人類学2』などを著わし、いまも健在というのですからそれだけですごいのですが、これに対応したような箇所を見つけました。レヴィ=ストロースの長く誠実であったろう研究生活を想像しながら「ああ、いいな」と思ったので…。

 あらゆる事実が、死の問題に対して人間がとる二つの相補的な応答のようなものとして、生物の中に文化と社会が発生している、ということを示唆している。社会は、動物がみずからの死すべき運命を知ることを拒むものとして生じ、文化はそれを知る人間の対応として生まれている(p.31)。

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