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September 23, 2009

『零式艦上戦闘機』

Zero_fighter

『零式艦上戦闘機』清水政彦、新潮選書

 清水政彦さんの名前を初めて知ったのは文藝春秋が初出の『零戦と戦艦大和』文春新書でした。半藤一利、戸高一成さんなどに混じって、新鮮な論議を展開しているな、と感じたのですが、この本も「非力なエンジンとそれを補うための無理な軽量化によって、機体強度と防弾を疎かにして、優秀なパイロットを無駄死にさせた」という定説を一つひとつ打ち壊していきます。

 細かな話はいろいろあるでしょうが、著者が語りたかったのは、総力戦の現実。長期にわたる戦いはベテランパイロットを消耗させ、その損失を惜しむなら、彼らを新人教育担当者として後方に送り込まざるを得ず、そうなると常に前線は素人同然のパイロットで担わざるを得ないという現実。でも、そうした素人集団も運用によっては、やりようによっては負けない戦術をあみだし、それ徹底させることが、負けないことにつながる、と。さらに言えば、そうしたドライな現実を受けいれる覚悟が米軍にあって、日本軍になかったことが、1943年を通じて行われた中部ソロモン諸島と東部ニューギニア争奪戦における大消耗戦を招き、組織的な反抗が出来なくなった原因である、ということが著者の最も言いたかったことではないかと思います。

 一般にいわれる、ミッドウェーの敗戦が決定的であったわけではなく、その後も艦上戦闘機である零戦と旧帝国海軍の機動部隊はなかなか米軍とよく戦っていて、米軍のミスにも助けられた面もあったにせよ、ガダルカナルまでは、互角に渡りあっていたということが、よく描かれています。

 この本で改めて分ったのが「攻勢の優位」。

 真珠湾の後、南雲連合艦隊は連戦連勝。休養の後はインドまで出かけていってイギリス軍を撃破する始末。真珠湾から半年間、旧帝国海軍の全能感はどれほどのものだったかと思いますよ。それだけでなく、フィリピン制圧作戦でも、トチ狂った米軍の航空機の運用の失敗(残存機を上陸部隊への攻撃に向かわせ、空軍基地に対する防御を怠り、ベースを失う)などに助けられ、あっという間にオーストラリアも制服寸前までいくんですから、ぼくたちのお祖父さんたちはたしたもん。

 でも、それは勝っていたからまだ大丈夫だったんですね。というか、米軍が負け続けていたから、判断ミスが続いていた、と。それが、いったん逆転すると、こんどは日本側にミスが目立ち始め、ただでさえ体力がないもんだから、あっという間にやられまくっていく、と。

 にしても、戦争というのは、間違いと判断ミスの連続ですね。歴史にifはありませんが、もし珊瑚礁海戦でヨークタウンにとどめを差していたら、ミッドウェーの敗戦もなかったでしょうし…。

 でも、ミッドウェイにヨークタウンが生き残っていなかったとしても《大量の「にわかパイロット」を戦力化する上で目指すべき戦い方は、実はこのラッキー・ショットの発生率を最大化することであり、そのために敵により多くのミスをさせ、味方のミスをより少なく抑え、一瞬の好機に大量の弾丸をバラ撒くこと》というドライな結論を受けいれた米軍には勝てなかったでしょう。

 ぼくたちのお祖父さんたちは、実によく米軍と戦ったと思います。米軍も無敵などではなく、個々の戦闘では、間違いばっかり犯しますし、特に日本軍に押されっぱなしの太平洋戦争緒戦では、アホなミスばっかりやってます。

 米軍はハリウッドの映画のような無敵な軍隊ではなかったろうけど、現実を見て、それを受けいれ、具体的な効果のある戦術に反映させるフィードバックのシステムに優れていたろんだろうな、と感じます。

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