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September 12, 2009

『初期キリスト教の霊性 宣教・女性・異端』

Arai_early_christinanity

『初期キリスト教の霊性 宣教・女性・異端』荒井献、岩波書店

 序の霊性というのは言葉にならない深みであり、沈黙だが、やがてそこから言葉になって表出されていくもの、みたいな最初のまとめは、アンセルムスに関して吉本隆明さんが確か書いていた"深みのすごさ"みたいなものを浅いけど短くまとめていると思う(p.1)。

 個人的に面白かったのは使徒行伝12:12でペトロがマルコと呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った、という「家」は、マルコがラテン名であるからギリシア語を喋るユダヤ人であるヘレーニスタイの教会である可能性があり、最初期の1:13-14に言及されている、所謂「屋上の間」のある家がヘブライ語しかしゃべらないヘブライオイたちが集まっていたのと比較できる、というあたり。後に、初期共同体はヘレーニスタイとヘブライオイに別れますが、その様々な証拠のひとつとして、個人的には覚えておこう、と。

 にしても荒井先生はお元気ですね。数えで今年5月に傘寿ですか。つか、来年は80歳。素晴らしい。それなのに、「新約聖書における「聖餐」再考―批判に応えて」では日本基督教団あたりの聖餐論議なんかにひっぱり出されています。個人的には、カトリックもプロテスタントも商売(教会組織を維持・運営することを二番目に大切にしている=人間の生活でお金が二番目に大切なのと対応)でやっている以上、洗礼を受けていない人間を聖餐には参加させないという方向しかないという事情はわかりますが、そこに「すんませんせねぇ。ウチらにもいろいろ事情がありまして」という宗教的な低姿勢さがないと、フツーの人は寄りつかないと思うんですよね。

 「使徒「ユニア(ス)」 ローマ人への手紙一六章7節)をめぐって」は抜群に面白かった。新共同訳のロマ書16:7「わたしの同胞で、一緒に捕らわれの身となったことのある、アンドロニコとユニアスによろしく。この二人は使徒たちの中で目立っており、わたしより前にキリストを信じる者になりました」で言及されているユニアス(男性名)は実は女性名であり、女性使徒がいたこと(しかも自分より早く信者になった)をパウロも認めているという内容。と同時に、日本のカトリック系の翻訳は、ずっとユニア(女性名)を採用していたのに、プロテスタント側に押し切られるような形でユニアス(男性名)を採用しはじめたというのは、日本のキリスト教というコップの中の政治の話としても面白かったです。

 これにはカトリックの正典ともいうべきヒエロニムスによるラテン語ではIunianと女性型になっているので、近代になっても「ユニア」という女性名で翻訳されていたが、第二ヴァチカン公会議(1962-65)でプロテスタントとの共同翻訳が奨励された結果、ウルガタから離れてギリシア語校訂本(NGT)を底本としたため、「ユニアス」と表記するようになった、という皮肉な歴史があるんですな。

 荒井先生は《一世紀中期のローマ教会に、女性「使徒」が存在したことは確実であろう》(p.92)としていますが、その説を補強するものとして外伝『テクラ行伝』も取り上げています。『パウロ行伝(パウロとテクラ行伝)』は日本語訳(教文館)は15頁ぐらいなので改めて読もうかと。あと、L.BellevilleのNew Testament Studies 51の論文も読んでみたいと思いました。

 原始キリスト教史は同じようなことを何回も書かれていますが、まあ、良いお経は何回聞いてもいいという感じで、今回も頭の中を整理させてもらいました(Q資料と呼ばれるイエスの言語録を集めるのに熱心だった使徒集団がユダヤ教内部の革新運動を目指していたとか、奇跡物語を大切にしていたガリラヤ集団は医療的行為に救われたことのある地域共同体だったろうとか)。

 ただ、プロテスタントの人たちが単独司教制がうんぬんというのは、ちょっとおかしいというか、教会史なんかは全く詳しくないんですが、後世のカルヴァン以降の視点からの言い方にしか思えません。人間のつくってきた原始的な組織でリーダーのいない組織なんて考えられませんもん。

目次

序 初期キリスト教における霊性と批判的精神―ルカ文書を中心に

1 宣教と救済
「小さくされた者たち」の共同体―原始キリスト教における「家の教会」と宣教
永遠の生命によせて―ルカ、ヨハネ、トマスを中心に
新約聖書における「聖餐」再考―批判に応えて

2 女性と異端
使徒「ユニア(ス)」 ローマ人への手紙一六章7節)をめぐって
紀元後二世紀の女性宣教者像―『テクラ行伝』の場合、再考
『ユダの福音書』と『マリアによる福音書』―原始キリスト教におけるその位置づけ
イエスの『未知の言葉』に関する一考察 『トマスによる福音書』語録七七再考)

3 原始キリスト教史
最初期のキリスト教共同体
パレスティナから地中海世界へ
地中海世界の諸教会
初期カトリシズムの成立

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