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June 06, 2009

『単純な脳、複雑な「私」』

Ikegaya_brain

『単純な脳、複雑な「私」 または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義』池谷裕二、朝日出版社

 もう今年の新刊書のベストワンはこれだと思います。なかなか、これ以上、面白い本には逢えません。多くの方に読まれるといいな。

 お亡くなりになった米原万里さんが確か『進化しすぎた脳』の書評で、もし若ければ大脳生理学の研究者になりたい、と書いていました。若い時代に戻りたいとは思いせんが、この時だけは「そうだよな。こんなに面白い世界なら、自分の能力は別としてこの分野の研究者として生きていきたいもんだな」と感じました。文系のぼくがそう感じるのは"知覚の現象学"が、哲学的な言葉だけでなく脳の動きが高速の顕微鏡で動画としてみられるようになってきているからです。今まで哲学的に不思議だったことが、リアルな細胞の動きで説明されてしまう凄さといいましょうか。

 池谷さんは、一連の自著をアウトリーチ活動と定義しています。『進化しすぎた脳』も『単純な脳、複雑な「私」』も高校生向けの講義をまとめた本ですが、レクチャーする相手というのが熱心な高校生というのは、ちょうどいい感じですよね。講義する方も、聴く側の真剣な眼差しと新鮮な質問にノッてくる感じがしますし。池谷さんはその後も単著や共著を出し続けますが、基本データは『進化しすぎた脳』だったように思います。それが今回の『単純な脳、複雑な「私」』で刷新されたといいますか、日々進化を続ける研究の成果がライブ感たっぷりに語られていて「ここまで科学はいってるんだ!」と驚くような内容にページをめくるのももどかしい、という感じを久々に受けました。

 まず驚いたのが「核基底」の話(p.79-)。人間の直感はなかなかスゴイといいますか、スーパーコンピュータ並の性能を持つと思うのですが、勘に従って決断している時の脳の活動をMRIで測定すると、核基底が活動していたそうです。実は核基底は「手続き記憶」「方法の記憶」をつかさどる座。自転車に乗ったり、箸を動かしたりするときに無意識に使われる筋肉の動きなどを正確無比な高度な記憶で操ります。将棋でもプロは一番難しい盤面を見ただけで次の一手がわかるといいますが、こうした経験に基づいた勘は《無意識の脳が膨大な計算を瞬時に行って》いるからだというんですね(p.84)。なるほどな、と。

 あとは逆さメガネ(p.110)。天地が逆に見えるプリズムをつけても人間は馴れれば普通に生活できるようになるというあたりから、脳というのは世界を再構築しているんだという話にもっていくわけですが、そもそも網膜は凸レンズ一枚の構造。虫眼鏡で遠くの風景を見ると逆立しますが、実は《僕らはそもそも常にひっくり返った世界を見ているってことなんだ》そうですわ(p.110)。で、脳内で逆さメガネを通して得た画像を矯正している、と。いやー、まいりました。

 この時にフト思ったんですが、近いものを見るとき、特にメガネをかけている人は、一瞬外しますでしょ?あれって、近いものは虫眼鏡でも正立する像を得られますから、ひょっとして、無意識に脳内のスイッチを切り替えている仕草なんじゃないでしょうかね…いつか専門家に会ったら聞いてみたい。

 「2-31 日常生活は作話」(意味のでっちあげ)に満ちている」というのも納得です(p.154)。脳梁を切断された人に協力してもらった実験で(てんかん患者の治療として左右の脳を繋ぐ脳梁を切断する手術があるそうです)、左脳に時計、右脳にドライバーを見せると記憶には時計だけが残ります。しかし、ドライバーも意識はしていて、ランダムなものから何を見たかと聞かれて時計とドライバーを選んだ被験者は「時計を選んだけど、止まりそうだから電池を交換しようとしてドライバーも手にとった」という答を作話するんだそうです。このように、実は《僕らも常に周囲の状況に合わせてストーリーをでっちあげているー意味の偽造だ》というようなことをやってるという話につなげていきます。

 というより、リベットの法則(行動を起こそうと思った時に脳はすでに準備を開始している)を考えると、人間というのは《「やってしまっていること」の意味を必死に探そうと》している存在なのかもしれません(p.156)。だから自分探しとかするんでしょうがwこの流れで記憶の役目のひとつとして「時間の流れをつくる」ということをあげていたのも印象的(p.157)。

 人間というのは常に自分を他人の視点から見つめることで、モノマネをしながら経験を積んで生きていくみたいな話の流れも素晴らしかった。一昨年に試された脳部位で角回を刺激すると自分の後ろに誰か立っているような感じがするんだそうですが(もちろんそれは自分。さらに右の角回を刺激すると、なんと幽体離脱までできちゃうそうですw)、統合失調症に関連して、他者に襲われそうな感じも、こうしたゾワゾワ感が関係しているんじゃないかあたりも素晴らしいな、と(こんなの発見されたら修行系の仏教なんかオワですよねw)。

 まだ半分ぐらいですが、後は、皆さん、自分で感動してくださいw

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