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May 23, 2009

『経済学の名著30』

Keizai_meicho_30

『経済学の名著30』松原隆一郎、筑摩新書

 著者によると経済学では、原著者の意図を厳密に再現し、歴史的な経緯をふまえて紹介するような学説史というのは滅多にない、といいます。というのも、経済学では、単独学派の独占状態をあえて忌避しない風潮があったから、だといいます。ということでついこの間までは独占状態を謳歌していた新自由主義派はケインズの学説を賃金の下方硬直性ゆえに生じる失業を公共投資でなんとかしようとした人とサマライズするようになってしまった、と。

 他の人文社会学でも、学説史を読むと、素人なりにもだいたい大きな流れがつかまえられると思うのですが、確かに経済学では、そうした本を読んだ記憶がありません。最近の数式を理解できない、という面も否定しませんが、例えば物理なんかに関しては「きっと理解できれば、すごい世界が広がっているにちがいない」とくらいついていく気もおこるのですが、経済学の類書に関しては、そんな気は起きません。小生の地頭の悪さを認めるにはやぶさかではありませんが、同時にレヴィ・ストロースがメルロ=ポンティと語ったように「我々にはその(ラカンを理解する)時間の余裕がない」と捨て台詞を吐く自由もあると思います。

 まあということですが、経済理論はあまり面白くないのに、社会学というか社会批判としての経済書には面白いものが多いな、と感じたのがこの本を読んでの収穫でした。

 《流行の衣服から高等学術までが「他人への見せびらかし」にすぎないと断じた》ヴェブレン『有閑階級の理論』、ユダヤ教の世俗内的禁欲によって蓄積されたエネルギーが経済活動において爆発したことがプロテスタンティズム以上に資本主義の生成に機能したというゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』とか。

 あと、ぼくがいかに無学かということでしょうが、neue kombinationen(新結合)というドイツ語が、イノベーションの元となった言葉であり、イノベーションとは古い結合から新たに結びつけなおされることなんだな、と(シュンペーター『経済発展の理論』)。

 しかし、改めて経済学って、いったい何なんでしょうね。

 どの理論が正しいのかというようなアプローチはとうの昔に放棄されたような気がしますし。何もしないでレッセ・フォールせよという新自由主義が最終的な論戦に勝って以来、本格的な論争というのは素人目には起こっていないと思いますし(しかし、何もしないことがいいということを証明するような学問って他にあったんでしょうかね)。
 
 しかし新自由主義が30年間パーティをやったことで1兆ドルものツケがまわってきた今、当面、どんな政策が有効らしいかというコンセンサスにもとづいて、おっかなびっくりフィードバックを頻繁にとりながら進めていく、みたいな方法しかないんですかねぇ。

Ⅰ ロック『統治論』―私的所有権がもたらす自由とその限界
  ヒューム『経済論集』―奢侈と技術が文明社会を築く
  スミス『道徳感情論』―共和主義と商業主義をつなぐ「同感」
  スチュアート『経済の原理』―バブルと不況の原因として社会心理に注目する
  スミス『国富論』―「自然』な市場活動がもたらす「豊かさ」
  リカード『経済学および課税の原理』―自由貿易と階級社会の桎梏
  リスト『経済学の国民的体系』―生産力と国民文化の「型」
  JSミル『経済学原理』―経済停滞と環境制約を超え精神的成熟をめざす

Ⅱ マルクス『資本論』―貨幣と労働の神話を解く
  ワルラス『純粋経済学要論』―一般均衡理論が実現する社会主義
  ヴェブレン『有閑階級の理論』―大企業とみせびらかしが生み出す野蛮な文明
  ゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』―資本主義の興隆を支える精神とは
  シュンペーター『経済発展の理論』―技術革新と銀行は資本主義のエンジン
  マーシャル『産業と商業』―収穫逓増と経済的国民主義のゆくえ
  ナイト『リスク・不確実性および利潤』―不確実性に覆われた資本主義は「グッド・ゲーム」か
  メンガー『一般理論経済学』―「販売可能性」と「人間の経済」の謎
  ロビンズ『経済学の本質と意義』―形式化と価値自由は<科学>の条件か

Ⅲ バーリ=ミーンズ『近代株式会社と私有財産』―株式会社は誰のものか
  ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』―貨幣経済を動かす確信と不安
  ポラニー『大転換』―経済自由化は「悪魔の挽き臼」だ!
  サムエルソン『経済分析の基礎』―比較静学と集計量による経済分析
  ケインズ『若き日の信条』―不道徳は正当化できるか
  ハイエク『科学による反革命』―主観的知識と自主的秩序
  ガルブレイズ『ゆたかな社会』―大量生産・大量消費社会の到来
  ハイエク『自由の条件』―「自由の条件」としての「法の支配」
  フリードマン『資本主義と自由』―ポストモダン経済の幕開け
  ドラッカー『断絶の時代』―ポストモダン経済の幕開け
  ボードリヤール『消費社会の神話と構造』―差異化の果てに
  ロールズ『正義論』―福祉主義の論理的根拠を求めて
  セン『不平等の再検討』―「潜在能力」アプローチによる「公」の再発見

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