『地学のツボ』
『地学のツボ 地球と宇宙の不思議をさぐる』鎌田浩毅、ちくまプリマー新書
『世界がわかる理系の名著』がなかなか面白かったので鎌田浩毅先生の本を再び手にとりました。
まったく存じ上げなかったのですが、鎌田先生は火山というか地学がご専門なんですね。恥ずかしながら共通一次を地学で受けて以来、ほとんどマトモな本を読んでいなかったので、一読、驚愕しました。
「プルーム・テクトニクス」って知らないのは小生ぐらいなのかもしれませんが、いまや高校生の教科書にも載っているとは驚きです。もちろん、プレート・テクトニクスまでは知っていましたが、その先があったんですねぇ。
ざっくりいえば、大陸プレートとぶつかった海洋プレートが沈み込んでいくとマントルに冷たい部分ができてきて、それがやがて集まって中心部の核に向かって下降していく、と。下降していく冷たいプルーム(煙)があれば、逆に核から熱いプルームがわき上がってくるものもある、と。そうしたマントル内の動きが「プルーム・テクトニクス」である、と。
本書では、太平洋のハワイ諸島からミッドウェイ島につらなる火山と、天皇海山列が一直線にならずに途中で折れ曲がっている理由も《今から四〇〇〇万~五〇〇〇万年ほど前、太平洋プレートの残骸が大量に地下深部へ落ち込んだ結果、地表では太平洋プレートの運動方向が大きく変わったかもしれない》と「プルーム・テクトニクス」で説明されています。さらに大地溝帯を境にアフリカ大陸を真っ二つにしてしまうかもしれないというのですから、素晴らしい(図は本書の95頁)。
鎌田先生の説明が分かりやすいのは、重力をうまく使って説明してくれるからなのかな、と思います。
これも固有名詞だけは知っていましたが「深層水循環」に関しても、北極で氷が大量にできると、氷の中に塩類は入らないので、海水の塩類が増加して密度が重くなった極地の水は沈み込み、海底を太平洋方向に移動しはじめる、というとこから発生する、と納得的。
あと、これも小生がバカだっただけなのかもしれませんが、なぜ月が自転しないか、という問題も、この本ではじめて腑に落ちました。月は巨大隕石が地球ぶつかって飛び出たカケラが再び集まって1年ぐらいで出来たという「ジャイアント・インパクト」も名前ぐらいは聞いたことありましたが、その際、地球の重力で月の重たい物質が"オモテ"側に集まったから、常に一方向しか月は向いていないんだそうです。
いやー、なんか少し賢くなったような気分になるぐらいの目ウロコ本でした。
鎌田先生は科学の伝道師と自称なさっています。「あとがき」で高校の数学は17世紀までの内容、化学は19世紀までに発見された内容、物理は20世紀初頭ぐらいまでの内容、生物は20世紀後半までに研究された内容が中心なのに対して、地学は《最先端の内容が教えられている》と力説していますが、こうした熱さはエヴァンジェリストには絶対に必要だと思います。つか、このぐらい熱く語ってもらわないと、伝わりませんよね。
地学に関して、庄司薫さんがエッセイでこんなことを書いていたのを覚えています。
大学の授業でウェゲナーの大陸移動説を知ったけど、それは教官がチラッと紹介して「世の中にはこんな面白いことを考えていた人もいたんですね」と笑わせる授業のネタ扱いだった、と。しかし、その後、プレート・テクトニクス理論が確立され、ウェゲナーの大陸移動説が正しかったことがハッキリした、と。庄司さんは、当時の教養課程で一緒に授業を聞いた仲間ひとり一人に連絡して、ウェゲナーのことを笑ったのを謝罪しようじゃないかと呼びかけたい気持になった、みたいな内容だったと思うのです。庄司さんがこうした授業を聞いたのは1950年代後半だと思いますが、鎌田先生の「地学は最先端の内容が教えられている」というのは、改めて本当だな、と思いますし、そうした最新の内容を分かりやすく伝えてくれる本があるのは、本当にありがたいな、と感じます。
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