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March 03, 2009

『杜甫 偉大なる憂鬱』

Toho

『杜甫 偉大なる憂鬱』宇野直人、江原正士、平凡社

 『李白』に続く、平凡社の漢詩プロジェクトの第二弾。

 大して読んではいなかったのですが、李白に比べると、やや地味な印象があった、その理由が分かったような気になります。

 お二人が語っているように、李白の言葉がハリウッド映画のようなコンピュータグラフィックスを多用した華麗なイメージを広げるのに対し、杜甫の言葉は白黒スタンダード画面で撮影したドキュメンタリーのような印象です。

 杜甫は儒教の教えを心から信じていたようで、常に農民や市井の人々の暮らしを思いやるとともに、安史の乱によってかきまわされることになった自分自身の不遇の境遇についても、それを嘆くだけでなく、もっと悲惨な人々に想いを寄せていきます。

 誰でも一度は読んだことのある『春望』。

 この作品は安史の乱に巻き込まれて、安禄山軍に捕虜となった杜甫が長安に幽閉された時につくったものだということぐらいは知っていたものの、究極の律詩であるという評価までは知りませんでした。というか、そもそも、律詩の形式を整えたのは杜甫だったということです。

国破山河在 国破れて山河あり
城春草木深 城春にして草木深し

感時花潅涙 時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
恨別鳥驚心 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす

烽火連三月 烽火三月に連なり
家書抵萬金 家書萬金に抵(あた)る

白頭掻更短 白頭掻かけば更に短く
渾欲不勝簪 渾(す)べて簪(しん)に勝(た)えざらんと欲す

 「国破れて山河あり」という大きな詠いだしから、最後は髪が抜けて冠をつけるピンもとめられないほどになってしまう、と小さな「簪(しん=冠をつけるためのピン、かんざし)」に注目する全体の流れ。さらに3・4句も5・6句も「環境~自分のこと~環境~自分のこと」という公私の対比がみられ超一流とのこと(p.117)。

 太平洋戦争の終結時という大状況に、多くの日本人が思い出したのは『春望』だといいますが、それがこうした超一流の詩だったというのは、救いだと感じます。

 カバーの肖像画がいいんですよね。橋本関雪の作品だそうですが、半世紀以上も不明だったとのこと。それが、生きている間は不遇で、放浪の末に亡くなり、後に評価が高まったという杜甫のイメージと合っている感じがします。

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