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March 17, 2009

『電車の運転』

Dirve_train

『電車の運転 運転士が語る鉄道のしくみ』宇田賢吉、中公新書

 相変わらず、現実逃避の読書を続けています。

 本書は1958年に旧国鉄に入社し、分割・民営化後は西日本で運転士をつとめた筆者が、一般読者向けに、電車の運転士はどんな仕事なんだろうか、ということを新書本一冊にまとめたもの。

 サブタイトルがいいですね。

 「運転士が語る鉄道のしくみ」。

 ピタリと止めるみたいな運転の技術を誇らしげに語るのではなく、鉄道という巨大なシステムの中で、運転士というのがどのような仕事をこなしているか、という視点が貫かれています。

 運転士というは、一昔前までは中間子がいい、といわれていました。

 中間子というのは長男でもなく、末っ子でもなく、その中間に生まれた子。長男の命令も聞くし、末っ子が駄々をこねても、なんとなくやりすごす、みたいな。

 鉄道という巨大システムの中で「おサルの電車」と揶揄されながらも、早朝や深夜勤務をこなし、ランカーブを読み、信号をいちいち確認し、ダイヤ通り運転するのは生身の人間なんですよね。

 筆者もかなり最初に書いていますが曲線は高速運転の障害であり《運転士のテクニックで制限を超える運転は考えられない》(p.16)のです。

 著者の経歴からしても、福知山線事故についてふれてもいいのでは…とは思いますが、ラストに(本当に最後)こう書いている心情は素晴らしく理解できます(p.259)。

 むろん事故を秘密にするつもりはない。事故の調査には隠さず協力するが、後は司法担当へ任せすのが筋だろう。事故現場を通るたびに、二度と起きないようにと意識することが私なりの鎮魂だと思っている。

 これは重い言葉だと思います。

 根掘り葉堀り聞いても、絶対、人間は自分の自己同一性を保つためにも、合理化するもんなんです。それを否定するようなことをしても、組織は守れるかもしれませんが、所詮、その組織だって人間がつくるものなのですから、ムリがきて、いずれはおかしくなってしまう。

 ぼくは、著者の骨太の気概に感動しました。

 どんな批判を受けてもいいが、こうやって、これまでやってきた、という著者の生涯をかけた自信を感じる一冊です。

 技術書なのに素晴らしい。

 しかもドカチン(技術系のキャリア)ではなく、たたき上げの運転士の方がこれだけの本をものにした、というのが日本の鉄道の素晴らしさだと思います。

 次は電車の何倍も難しいといわれる貨物列車の運転士のこのような本が読みたいかな、と。

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