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March 15, 2009

『資本論』第1巻23章

Das_kapital

『資本論 第1巻(下)』マルクス・コレクション、今村仁司、鈴木直、三島憲一(訳) 、筑摩書房

 あまり時事問題には反応しないようにしているんですが、春闘ベアゼロが既定路線になっていたり、それどころかいわゆる2009年問題によって同一部署で連続3年以上派遣契約を結べないために新年度から大量の雇用が失われそうになる、みたいな問題はやはり気にかかりるといいますか、心が痛みます。これは感覚的な問題かもしれないのですが、通勤で利用している東横線の風景も少しずつ変わってきたといいますか、夜などには疲れ切った表情の若い方々が増えてきているように感じますし…。ということもあって、先日、久々に『資本論』で労働人口に関して書かれていたところを読んだんです。

 それは第1巻23章。

 『資本論』は、最初の「商品と貨幣」のところなんかは岩井克人さんではありませんが循環論法じゃないかと思いますし、労働価値説を元にした価値増殖過程のところなんかはフレデリック・テイラーなんかに思わぬところからあっさりと乗り越えられてしまったと思うし、大きな価値としては当時のイギリス社会の分析というか社会学的な意味しかないかもしれないとは感じているのですが、労働日とか人口問題に関しては、まだ少し価値が残っているんじゃないかと思います。マルクスも『資本論』は8章「労働日」から読んだ方がとっつきやすいなんて言っているのですが、それはおいといても、なんといいますか、『資本論』の中でひっそりとしたユートピアみたいなところとして残っているのは23章じゃないのかな、と思っています。

 23章は人口問題を扱っています。

 資本主義的生産といいますか資本主義経済では、過剰人口といいますか、過剰労働力といいますか、産業予備軍が必要だ、というのがマルクスの主張。

 過剰な労働人口が存在していれば、好景気になっても完全雇用状態に近づくまでに時間がかかりますから、相対的に賃金上昇は抑えることができます。

 逆の場合、不景気になったらもちろん労働者は使い捨て。

 さらに不景気になればなるほど労賃は下がっていきますので、安く労働力は調達できる、と。

 そうなると資本の蓄積は容易になるのでこんどは好景気に向かっていく、と。

 今の日本でも「100年に一度の不況だけど、しばらくたてば必ず景気は回復する」と世の経営者たちが自信を持って語っているのは、もちろん経験則の部分もあると思いますが、誰も100年近く前の大恐慌のことをリアルに経験したことがないのに妙な自信があるとすれば、そこにはこうした背景も隠されているんだと思います。

 ぼくの周りにも高学歴で、高い技術力を持っているのに、マジで失業しそうな人間も出てきています。で、その対極ですが、アジアでも労働者放棄といいますか、使い捨てにされるような人々が多くなってきています(報道だけでしか知りませんが)。

 つまり、質が高くても低くても、とにかく労働力は過剰に存在するようになっているわけです。高学歴の失業者も必要だし、ほとんど社会的な訓練もされていないような労働力も、どちらも過剰にあればあるほど好都合なのかもしれません。

 マルクスが生きていたら、ここの部分だけは「予言は当った」とか言うんじゃないかと思いますが、正直なところ、ぼくが学生時代を経験していた頃には、こんな野蛮な資本主義は終わって、社会全体が収奪装置になるみたいなことは考えにくくなっていたんですよ。だから、23章なんかも、そんなに深刻な問題としては受けとれなかったんですが、ただ、日本の場合、教養の書として『資本論』を読むという場合などに、人口問題を重視なされた宇野弘蔵先生の影響が大きかったと思うので「ここらへんはちゃんと読んでおかないとな…」という感じで、今でも覚えているんです。

 まあ、とにかく、個人的には、『資本論』に書かれているような賃金はまったく上がらず、労働者は困窮するばかりみたいことは、まったく実感したことがないまま、社会人生活の大半を過ごしてきました。それに、バブルも経験しましたから23章に書かれているような、産業予備軍の困窮化みたいなことは、もうおこらないんじゃないと思っていたというか、完全に過去の話だと思っていました(90年代にはドラッカーなんかも、失業の恐怖は先進国のホワイトカラーでは問題にならなくなった、みたいなことを言ってましたし)。

 ま、もう長くは書きませんが、改めて読むと、珍しくマルクスは、こうした事態への具体的解決方法を提示しているんです。

 労働組合その他を通じて、就業者と非就業者のあいだの計画的な相互協力を組織化し、それによってかの資本制生産の自然法則が自分たちの階級にもたらす破滅的な結末を打ち破り、あるいは緩和しようとする。労働者がこれらのこに着手するやいなや、資本とその追従者たる経済学者は、「永遠の」、いわば、「聖なる」需給法則が破られたことをいたく憤慨する。(『資本論 第一巻 下』今村、三島、鈴木版、筑摩書房、p.393)

 まあ、ぼくが個人的に何ができるわけじゃないんですが、連合傘下の労働組合には、もう少し、非正規労働者との距離を縮めてくれれば、と感じます。

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