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February 03, 2009

『三島由紀夫文学論集III』

Mishima_utaemon

『三島由紀夫文学論集III』講談社文芸文庫

 『團十郎と歌右衛門』を読んでいて、三島由紀夫の中村歌右衛門論を読んでみたくなり取り寄せました。

 1948.11.20と最後に書かれた六代目芝翫時代の『中村芝翫論』、それから11年たった1959年9月に発行された写真集に寄せられた『六世中村歌右衛門序説』の二本です。

 最初の『中村芝翫論』の時、まだ三島由紀夫は本人と直接、会っていません。『團十郎と歌右衛門』よると、三島が楽屋を訪ねる形で対面するのは六世歌右衛門になってからの1951年11月。三島は『忠臣蔵』の「道行」のお軽に出ていた歌右衛門さんに、舞台の扮装のままで対面を希望したとのことです。歌右衛門さんは「きっと舞台の私に会いたいとお思いになったんでしょうね」と感想をもらしていますが、ぎこちない対面ではあったようです。それでも、一流好きの歌右衛門さんは三島との出会いを喜んで何か書いてくださいと頼み、後に「地獄変」などを発表することになり、三島も大満足だったようです(『團十郎と歌右衛門』p.125)。

 「君、歌右衛門は近くで見ても凛として美しいよ。あれが若い時男衆と駆け落ちしたと思うと、つくづくそいつが空おそろしい」と喘いでいたという(『回想 三島由紀夫』堂本正樹)

 なんてことも親しい人にはうちあけていたとのこと。

 さて、『中村芝翫論』ですが、文章は三島らしく華麗。《中村芝翫の美は一種の危機感にあるのであろう。金閣寺の雪姫が後ろ手に縛されたまま深く身を反らす。ほとんどその身が折れはしないかと思われるまで、戦慄的な徐やかさで、ますます深く身を反らす。その胸へ桜が撩乱と散りかかる》《こうした刹那刹那に芝翫のたぐいなく柔軟な肉体から、ある悲劇的な光線が放たれる。それが舞台全体に、むせぶようなトレモロを漲らす。妖気に似ている。墨染や滝夜叉が適うのは当然である》(pp.73-74)なんていうあたりは素晴らしい。ぼくが編集者ならトレモロうんぬんのあたりは書き直させると思いますが、最後の《芝翫の美しさは、歌舞伎の落日の美なのである》というまとめは、まあ、予定調和的ではあるものの素晴らしい。

 『六世中村歌右衛門序説』は歌右衛門さん自身も「私の宝です」と言っていた文章。

 昼さがりの銀座を歩いて現代的な日常風景を見ながら歌舞伎座にたどりつくと、ただひとり歌右衛門が「娘道成寺」を踊りぬいている。《むしろ今しがたまで耳目を占めてきた雑然たる現代の午さがりの光景を、ここに昼の只中の夜があって、その夜の中心部で、一人の美しい俳優が、一種の呪術のごときものを施しつつ、引き絞って一点に収斂されている姿である》(p.81)なんて書かれれば「私の宝」と言いたくなる気持も痛いほどわかります。

 《女方のナルシシスムスとは、いわば自分ではない者へのナルシシスムであり、彼の鏡の映像と彼自体とは、あの希臘の美少年のような同一の姿をとらないからである》(p.85)というのも見事だと思いますが、それから50年。現代の女形は、もっとくったくのないものに変わってきていると思います。下世話な言い方をすればジャニーズ的、みたいな。

 ぼくは『NINAGAWA 十二夜』でヴィオラ:琵琶姫とシザーリオ(男装したヴィオラ):獅子丸を尾上菊之助が演じた舞台が好きなのですが、獅子丸のときに「女形の男装」をしてあらわれ、時々、声が裏返ってしまう場面に、内包された"女性"性が突き破ってくる自然な不自然さを感じました。観てはいませんが、滝沢秀明が舞台で四谷怪談のお岩や「安珍清姫」の清姫、テレビで「雪之丞変化」に挑戦しているのも、同じようなアプローチを感じます。

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